マニュエラ・シャー

マニュエラ・シャー（Manuela Schär）は、1984年12月5日に生まれたスイス出身の車いす陸上競技選手です。世界トップクラスのアスリートとして、特にマラソン種目において数々の素晴らしい成績を収めています。

彼女の人生は、9歳の時にブランコからの転落事故により大きく変わりました。この事故で背中に深刻な損傷を負い、下半身に対麻痺が残る障害を負うことになりました。しかし、障害を乗り越え、新たな道を歩み始めたのは1998年、スイスのノットウィルにあるスイスパラプレジックセンターでした。ここで車いす陸上競技と出会い、アスリートとしてのキャリアをスタートさせます。

プロのアスリートとして厳しいトレーニングを積む一方で、彼女は社会の一員としても活動を続けています。スイス対麻痺協会に所属し、週の時間の約20%を文化・レジャー部門の業務に充てています。残りの多くの時間は競技練習に費やすという、アスリートと社会人としての生活を両立させています。

また、アスリートとしての知名度を活かし、社会貢献活動にも積極的に関わっています。特に、世界の恵まれない子供たちにスポーツや遊びを通じて教育や成長の機会を提供する国際チャリティ団体「Right to Play」のアンバサダーを、2015年から務め、その活動を支援しています。

パラリンピックには、2004年のアテネ大会で初めて出場し、鮮烈なデビューを飾りました。この大会で、100mでは銅メダル、200mでは銀メダルを獲得しました。

その後も連続して世界の舞台に立ち続け、東京大会まで実に5大会連続でパラリンピックに出場しています。

競技キャリアの初期は短距離種目を専門としていましたが、2008年の北京大会以降は800mにも挑戦するようになります。そして、2012年のロンドン大会を境に、主戦場を中長距離やマラソンへとシフトさせました。この種目転向が、彼女のその後の目覚ましい活躍につながることになります。

マラソンに専念するようになってから、彼女はその才能を開花させました。特に、世界最高峰の6つのマラソン大会（東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティ）で構成される「アボット・ワールドマラソンメジャーズ」において、車いす女子部門で圧倒的な強さを見せました。

2018-19シーズンおよび2019-20シーズンの2季連続で総合チャンピオンに輝き、この分野での世界的な第一人者としての地位を不動のものとしました。

日本国内で開催される大会でも、その力強いパフォーマンスを幾度となく披露しています。世界有数の高速コースとして知られる大分国際車いすマラソンでは、2013年の第33回大会から2015年の第35回大会にかけて3連覇を達成するなど、これまでに4回の優勝経験があります。

さらに、2019年の第39回大会では、1時間35分42秒という驚異的なタイムを記録し、女子車いすマラソンの世界記録を樹立しました。

東京マラソン（車いすエリート部門）でも、2018年と2019年に連続優勝しており、日本での開催レースにおける強さが際立っています。

彼女の競技活動は、多くのサポートによって支えられています。特に2017年からは日本のホンダとサポート契約を結び、競技用車いす（レーサー）の提供を含む技術的な支援を受けています。この強力なサポート体制が、彼女のパフォーマンス向上に貢献していると考えられます。

マニュエラ・シャーは、不屈の精神で障害を乗り越え、世界のトップアスリートとして活躍するだけでなく、社会貢献や仕事にも誠実に取り組む、多方面で影響力を持つ存在です。彼女の挑戦は、多くの人々に希望と感動を与え続けています。

もう一度検索