マヌエル・デ・ゴドイの肖像

マヌエル・デ・ゴドイの肖像

『マヌエル・デ・ゴドイの肖像』は、1801年にフランシスコ・デ・ゴヤによって描かれた肖像画です。この作品は、スペインのロマン主義の巨匠であるゴヤの代表作の一つとして知られています。美術作品としては油彩で描かれ、スペインの宰相であり「平和公」として名高いマヌエル・デ・ゴドイをモデルにしています。現在この肖像画は、マドリードにある王立サン・フェルナンド美術アカデミーに所蔵されていますが、ゴドイの騎馬像として描かれた異なるバージョンが、ニューヨークの個人コレクションとマドリードのプラド美術館にも収蔵されています。

マヌエル・デ・ゴドイの生涯

マヌエル・デ・ゴドイは1767年にバダホス近郊のカストゥエラに生まれました。彼は地方貴族の三男として育ち、サン・アントン神学校で学びましたが、最終的には軍人としての道を選びました。彼は1784年に国王の警備隊に加わり、その後急速にカルロス4世や王妃マリア・ルイサの信頼を得て、政権の中枢に躍り出ました。ゴドイの急成長の背後には様々な噂がありましたが、確かな証拠はなく、1792年に宰相に就任してからは、名目上の権力者であったカルロス4世の影で実権を握っていました。彼は1797年にマリア・テレサ・デ・ボルボーンと結婚し、1808年までの16年間、スペインの実力者として君臨しましたが、民衆の蜂起により失脚し、亡命することになりました。

制作の背景

制作された1801年は、スペインがフランスと同盟してポルトガルに対する侵攻を行った年でした。この侵略戦争はオレンジ戦争と呼ばれ、ゴドイはこの戦争でスペイン軍を指揮しました。戦闘の結果、ポルトガルがスペインに一部を割譲することとなったこの勝利を記念して、肖像画はカルロス4世かゴドイ自身によって発注されたと考えられています。

作品の特徴

ゴヤの作品では、戦時下のゴドイが描かれています。彼は黒い軍帽を足元に置き、尊大な姿勢で座っており、右手には紙を持ち、その内容を確認しています。彼の目線はポルトガルの国旗を見据え、軍服は多くの勲章で装飾されています。背景には劇的な雲が広がっており、その陰に照らされた彼の姿との対比が印象的です。岩の上に座るゴドイは、画面の中心に向かう構図で描かれ、ポルトガルの国旗とのバランスが巧妙に扱われています。

作品の運命

アランフエス暴動後、ゴドイのコレクションは没収され、本作もその一部として王立サン・フェルナンド美術アカデミーに所蔵されることになりました。さらに、肖像画の異なるバージョンも存在し、これらはゴドイの騎馬像として描かれています。これらの作品の背景や制作過程は謎に包まれており、特に一部は他の画家によって手が加えられたことが確認されています。

この作品は、マヌエル・デ・ゴドイの権力の象徴としてだけでなく、当時のスペイン美術の重要な一部とされています。彼の矛盾した人生と政治的状況が反映されたこの肖像画は、単なる美術作品にとどまらず、歴史的な記憶をも宿しているのです。

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