マヌエル・ポンセ

マヌエル・マリア・ポンセ

メキシコを代表する作曲家、音楽教師、そしてピアニストであったマヌエル・マリア・ポンセ・クエラル（1882-1948）は、その生涯において、初期の後期ロマン派的な様式から、やがて新古典主義へと作風を大きく変化させました。彼は母国の音楽にヨーロッパの音楽語法を融合させ、豊かな創作活動を展開しました。

ポンセは1882年 12月8日にサカテカス州フレスニージョで生を受けましたが、生後間もなくアグアスカリエンテスへ居を移しました。幼い頃から音楽に才能を示し、地方の聖堂で教育を受けつつ、16歳という若さで教会の専属オルガニストを務めています。その後、18歳でメキシコシティ国立音楽院に入学し、専門的な音楽教育を受けました。

さらなる研鑽を積むため、ポンセは1905年にヨーロッパへ渡ります。ボローニャとベルリンに留学し、特にベルリンではフランツ・リストの弟子であったマルティン・クラウゼにピアノを師事しました。1907年にメキシコへ帰国すると、母校である国立音楽院で教壇に立ち始め、カルロス・チャベスなど、後のメキシコ音楽界を担う人材を育てました。ピアニストとしては、当時としては新しい響きを持つクロード・ドビュッシーの作品を積極的に紹介しました。

メキシコ革命による国内の混乱から一時身を守るため、ポンセは1915年から1917年にかけてキューバに滞在しました。この期間中に、ニューヨークで作曲家および演奏家として国際的なデビューを果たしています。その後、メキシコに戻り、フランス出身の声楽家と結婚しました。

1925年、ポンセは再びヨーロッパへと向かいます。パリ音楽院で作曲をポール・デュカに師事し、また、同地で著名なギター奏者アンドレス・セゴビアと深い親交を結ぶことになります。短い期間ではありましたが、高名な音楽教育家ナディア・ブーランジェからも指導を受けました。1933年に帰国してからは、メキシコ大学や再び母校で教鞭を執るとともに、ピアニストや指揮者としても精力的に活動しました。

晩年は腎臓病やリウマチに悩まされましたが、その功績は高く評価されていました。1948年、ミゲル・アレマン大統領より、音楽家としては初めて「芸術科学国家賞」を授与されました。しかし、その栄誉を受ける間もなく、同年4月24日にメキシコシティで尿毒症により息を引き取りました。彼の死後、1949年にはメキシコ国立芸術院のホールが「サラ・マヌエル・M・ポンセ」（Sala Manuel M. Ponce）と命名され、その業績が長く称えられることになりました。ポンセの遺体は、メキシコシティのパンテオン・シビル・デ・ドロレスに埋葬されています。

ポンセの作品の中で、今日最も広く知られているのは、ヤッシャ・ハイフェッツによるヴァイオリン編曲版で特に有名な歌曲『小さな星（エストレリータ）』でしょう。この感傷的なメロディーは、彼自身が作詞も手がけました。しかし、彼はこの一曲にとどまらず、新古典主義的な様式による規模の大きな作品も数多く残しています。例えば、ヴァイオリン協奏曲や、セゴビアのために書かれたギター協奏曲『南の協奏曲』（Concierto del Sur, 1941年）などが挙げられます。

初期の作品、特にピアノ協奏曲第1番のような楽曲には、シューマンを思わせる叙情性と情熱が込められており、ロマン派音楽の伝統を強く感じさせます。この他にも、ロマン派から印象派の影響を受けたマズルカをはじめとする舞曲、演奏会用練習曲、変奏曲やフーガなど、多様なピアノ曲を作曲しましたが、残念ながら失われた作品も少なくありません。

ポンセの器楽曲の中でも、特にその独自性と重要性が認められているのがギター作品群です。アンドレス・セゴビアとの交流が深く関わっており、彼の高度な演奏技巧を念頭に置いて作曲されました。代表的な作品には、『「ラ・フォリア」を主題とする変奏曲とフーガ』（1929年）、シューベルト没後100周年を記念して書かれた『ロマンティックなソナタ』（Sonata Romantica, 1927年-1929年）、『ギター・ソナタ第3番』（Sonata III, 1927年）、そして『南国のソナチネ』（Sonatina Meridional, 1939年）などがあり、これらは多くのギター奏者にとって重要なレパートリーとなっています。

ポンセの音楽は、ヨーロッパで培われた洗練された技術を基盤としていますが、創作素材にはメキシコの豊かな民謡を積極的に取り入れました。初期にはスペイン征服後の民謡を主に用いた『メキシコ狂詩曲』（ピアノ用、1911年/1913年）のような作品が見られますが、後年には教育用の『20のやさしい小品集』（1939年）で先住民族の民謡も素材として用いています。また、二度目のフランス留学後は、新古典主義や多調といった当時最先端の音楽語法を取り入れ、より現代的で先鋭的なスタイルへと移行しました。

マヌエル・マリア・ポンセは、メキシコ音楽に国際的な視野と多様な影響をもたらし、その後の世代に大きな影響を与えた重要な作曲家です。彼の作品は、メキシコの魂と普遍的な音楽美を融合させた独自の響きを持っています。

もう一度検索