多調

多調（たちょう）とは、音楽において、異なる調が同時に演奏される状態、またはそのように意図された作曲技法を指します。ポリトーナル（polytonal）とも呼ばれ、これは形容詞形です。また、旋法を用いる場合はポリモード（polymode）と呼ばれることもあります。

この技法を用いることで、ポリフォニー音楽はさらに立体感を増し、同時に半音などの音を奏でることで、音楽に鋭さとともに「暈し」のような効果を加えることができます。多調は、複数の声部を持つピアノ音楽においては比較的古くから用いられており、ショパンの初期のポロネーズ（第13番）にもその例が見られます。さらに古い例としては、モーツァルトの『音楽の冗談』が挙げられます。

特に、異なる調性が2つの場合に「複調」という言葉が使われます。多調音楽という場合でも、実際には複調であることが多く、3つ以上の調性が同時に使われる例は複調に比べて少ないです。

代表的な作品

多調を用いた代表的な作品としては、クラシック音楽では以下のようなものがあります。

ムソルグスキー：『ボリス・ゴドゥノフ』 - 戴冠式の場面で、変ニ長調とト長調の属七が交互に演奏されます。
ラヴェル：『水の戯れ』 - ストラヴィンスキーよりも早くペトルーシュカ和音を使用しています。
ストラヴィンスキー：『ペトルーシュカ』、『春の祭典』、『兵士の物語』など、多くの作品で多調が用いられています。
ニールセン：交響曲第4番『不滅』やそれ以降の作品でも、多調の要素が取り入れられています。
シマノフスキ：弦楽四重奏曲第1番第3楽章 - 4つのパートそれぞれに異なる調性が当てられた、4重多調の例です。この技法は、後にバルトークの中心軸システムに発展しました。
ミヨー：小交響曲、弦楽四重奏曲のいくつか、『屋根の上の牛』、『プロヴァンス組曲』、『フランス組曲』、『ブラジルへの郷愁』など、多くの作品で多調を積極的に用いています。

また、部分的に多調を用いた例としては、以下のような作品があります。

リヒャルト・シュトラウス：『サロメ』、『エレクトラ』
マーラー：交響曲第10番

レスピーギやアッテルベリなど、無調音楽に批判的な作曲家でも多調を用いた例があります。

ジャズの分野では、マイルス・デイヴィスの諸作品など、1960年代後半以降に広く聞かれるようになりました。

鍵盤楽器での多調

ピアノの黒鍵だけで五音音階を弾けることはよく知られています。例えば、嬰ヘのヨナ抜き長音階などです。この特性を利用して、片手で白鍵のみを、もう片手で黒鍵のみを演奏すると、ハ長調と嬰ヘ長調などの減5度（増4度）、いわゆる三全音複調になります。これは鍵盤楽器特有の技法であり、印象主義音楽などで多用されました。特にシマノフスキのピアノ曲では、白鍵の音符すべてにナチュラル、黒鍵の音符すべてにフラットを付けることで、ピアノ譜の上段と下段で臨時記号が偏る場面が多く見られます。また、三全音自体がロマン派以降の非機能和声的音楽に都合が良いため、鍵盤楽器に限らずオーケストラ作品でも頻繁に使用されています（ペトルーシュカ和音など）。

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