マフディー戦争

マフディー戦争：スーダンを舞台にした19世紀末の激戦

マフディー戦争は、19世紀末にスーダンで発生した植民地戦争であり、マフディー教徒とエジプト、そして後にイギリス軍が激突しました。この戦争は、マフディーの反乱とも呼ばれ、イギリスでは自国が戦った局面をスーダン戦役と呼んでいます。スーダンの人々の苦難と、それに対する抵抗運動の歴史を深く掘り下げて見ていきましょう。

マフディーの反乱：抑圧からの解放

1819年以降、スーダンはエジプトの支配下に置かれ、「トゥルキヤ」と呼ばれていました。エジプトによる過酷な重税と奴隷貿易の禁止は、スーダンの人々に深い憎悪を抱かせました。1870年代、宗教指導者ムハンマド・アフマドは、信仰の革新と国土の解放を訴え、多くの信徒を集めました。1881年6月19日、ムハンマド・アフマドは自らを「マフディー」、つまり「救世主」であると宣言し、エジプトに対する反乱を開始しました。

エジプト総督はマフディーを逮捕しようとしますが、マフディー軍は逆にエジプト軍を撃破。マフディーは首都ハルツームから遠く離れたコルドファンへ戦略的後退を行い、これが預言者ムハンマドのヒジュラを模倣した勝利の行進として捉えられ、アラブ部族からの支持を広げました。1882年6月、マフディー軍はエジプト軍を殲滅し、大量の武器と物資を鹵獲しました。この勝利が反乱の勢いをさらに加速させました。

ヒックスの遠征：英国の介入

エジプト政府は英国の強い影響下にあり、ヨーロッパ列強はスーダン情勢を警戒していました。1883年夏、エジプト軍はハルツームに集結し、元英軍将校ウィリアム・ヒックスの指揮下で遠征軍を編成。しかし、この軍隊は給与も満足に支払われず、訓練も不足しており、ウィンストン・チャーチルは「戦争に臨んだ最悪の軍隊」と評しました。

遠征軍はオベイドの救援を目指しましたが、到着前にオベイドは陥落。ヒックス軍は11月5日のエル・オベイドの戦いでマフディー軍に全滅させられました。この敗北は、スーダンにおけるエジプトの権威を著しく低下させました。

スーダンからの避難：ゴードン将軍の派遣

イギリス政府は、スーダンの維持がエジプトの財政を圧迫していることに気づき、スーダンからの撤退を決定しました。撤退を安全に進めるため、イギリスはチャールズ・ゴードン将軍を派遣しました。ゴードンは極東での活躍で知られる有能な軍人でしたが、同時に頑固で融通が利かない人物でもありました。

1884年2月、ゴードンはハルツームに到着し、撤退の困難さを痛感しました。エジプト軍は各地に分散しており、マフディー軍に包囲されていました。ゴードンはハルツームの住民を見捨てることができず、撤退を拒否。マフディー軍は1884年3月にハルツームを包囲し、外部との連絡を遮断しました。

ハルツーム包囲：ゴードンの悲劇

ハルツームは堅固な要塞でしたが、マフディー軍による包囲が長期化。英軍の救援がなければ、ゴードンは助からない状況でした。イギリス政府は世論に押され、サー・ガーネット・ウルズリー将軍率いる遠征軍を派遣しましたが、救援軍が到着したときには既に手遅れでした。

1885年1月25日、ハルツームは陥落し、ゴードンと守備隊は虐殺されました。この出来事は、イギリスとエジプトのスーダンへの関与を一時的に終わらせ、スーダンはマフディーの支配下に入りました。

マフディーの支配：イスラム国家の成立

マフディー、ムハンマド・アフマドの死後、アブダッラーヒ・イブン・ムハンマドが後継者となり、マフディー国家を統治しました。マフディー国家はイスラム法に基づいて統治を行い、13年間スーダンを支配。周辺地域への侵攻を繰り返しましたが、戦争による重税により民衆の不満が高まりました。

英国の帰還：スーダンの再征服

エジプトはスーダンに対する領有権を放棄しておらず、英国政府もそれを合法的なものと見なしていました。経済と軍事を再建したエジプトは、スーダン再征服の準備を整えていました。1896年、イタリアがエチオピアに敗北したことを受け、イギリス政府は北スーダンで示威運動を開始。これを機に、イギリスはスーダンへの本格的な侵攻を開始しました。

イギリス・エジプト軍は、ホレイショ・キッチナー将軍の指揮下で1898年4月にアトバラの戦いでマフディー軍を撃破。その後、オムドゥルマンの戦いでマフディー軍に壊滅的な打撃を与え、マフディー体制は終焉を迎えました。

戦後：英埃領スーダンの成立

イギリスはスーダンに植民地体制を構築し、エジプトとの共同主権によるスーダン統治を確立しました（英埃領スーダン）。この体制は1956年のスーダン独立まで続きました。マフディー戦争は、スーダンの人々の苦難と抵抗の歴史であり、植民地主義の暗い側面を浮き彫りにする出来事でした。

主要な戦闘

エル・オベイドの戦い
ハルツーム包囲戦
アブクレアの戦い
ガラバットの戦い
アトバラの戦い
オムダーマンの戦い

参考文献

「アフリカの歴史―侵略と抵抗の軌跡」（岡倉登志、明石書店、2001年）
「アフリカ現代史（2）」（山川出版社、1978年）
「マフディー運動の史的再検討 : 19世紀エジプト領スーダンにおける「奴隷交易問題」の分析を通じて」（栗田禎子、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、1988年）

関連項目

カーツーム (映画)
* サハラに舞う羽根

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