マラソン足袋

マラソン足袋：日本のマラソン史を彩った革新的ランニングギア

日本のマラソン史において、革新的な存在感を示した「マラソン足袋」。その歴史と進化、そして衰退までを紐解きます。

明治時代：足袋とマラソンの出会い

明治時代、軽量化を重視した日本の長距離走者は、普段着にも用いられる足袋をマラソンに使用していました。しかし、1912年のストックホルムオリンピック予選会で、金栗四三選手が着用した足袋は長距離走行に耐えきれず、ゴール時には裸足になってしまったのです。この経験が、マラソン足袋開発の大きな転換点となりました。

黒坂辛作氏との出会い、そして改良

金栗選手は、東京高等師範学校近くで足袋店を営む黒坂辛作氏に改良を依頼しました。黒坂氏は足袋底を三重に補強するなど、長距離走行に耐えうるマラソン足袋を完成させました。しかし、ストックホルムの石畳の道では衝撃吸収が不十分であり、金栗選手は足を痛めてしまいます。

カナクリ足袋の誕生と成功

帰国後、金栗選手と黒坂氏はさらなる改良を重ね、ゴム底を貼り付け、小鉤を廃して紐で縛るタイプの「カナクリ足袋」を開発しました。このカナクリ足袋は、日本のマラソン選手に大きな成功をもたらします。1928年のアムステルダムオリンピック、1936年のベルリンオリンピックで、日本人選手が数々のメダルを獲得しました。ベルリンオリンピックでは、孫基禎選手の金メダル獲得時に、黒坂氏が新聞取材でコメントを残しており、マラソン足袋の国際的な認知度を示しています。1951年のボストンマラソン優勝者、田中茂樹選手もカナクリ足袋を使用していました。

マラソンシューズへの転換

しかし、指の分離という構造がキック力を弱めるという考えから、黒坂氏の後継者である與田勝蔵氏は、マラソンシューズの開発に力を入れるようになります。1953年のボストンマラソンで、日本人選手が全員シューズを着用し、山田敬蔵選手が優勝したことが、ハリマヤ足袋店のスポーツシューズメーカーへの転換を決定づけました。ハリマヤのマラソンシューズは、谷口浩美選手などにも愛用されましたが、1990年代に製造を終了しています。

現代のマラソン足袋

ハリマヤ足袋店がマラソン足袋から撤退した後も、他のメーカーが改良を続け、現在もマラソン足袋、ランニング足袋として販売されています。2017年のドラマ『陸王』で使用されたきねや足袋の製品も、その一例です。また、金栗四三選手の出身地である玉名市では、カナクリ足袋を再現したランニング足袋をふるさと納税の返礼品として提供しています。

まとめ

マラソン足袋は、日本のマラソン史において重要な役割を果たしたランニングギアです。金栗四三選手と黒坂辛作氏という、二人の情熱と創意工夫によって生み出され、日本のマラソン選手を世界へと導きました。その進化と衰退の歴史は、技術革新とスポーツ界の変化を反映しており、日本のスポーツ文化の一端を垣間見ることができるでしょう。マラソン足袋は、もはや主流ではありませんが、その歴史的意義と、日本の技術力の高さを物語る、貴重な存在です。

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