マラチオン

マラチオン：安全性と課題が併存する殺虫剤

マラチオンは、有機リン・有機硫黄系殺虫剤として広く知られています。1950年にアメリカで開発され、日本でも1953年に農薬登録を受けた歴史ある薬剤です。一般的には「マラソン」の名称で乳剤や粉剤として販売され、農業や家庭園芸における害虫駆除に長年使用されてきました。

マラチオンの特性と用途

マラチオンは、接触性と浸透移行性を併せ持つ殺虫剤です。アブラムシ、ハダニ、カメムシなど、幅広い害虫に対して効果を発揮します。その特長として、以下の点が挙げられます。

広範な適用性: 多様な農作物と多くの害虫への適用登録があります。
即効性と浸透移行性: 直接害虫に当たらない場合でも、一定の効果が期待できます。
低価格: 家庭園芸でも容易に購入可能です。
低毒性: 人体への毒性が低いため、毒劇物指定はなく、一般的に販売されています。

しかしながら、残効性が短いという短所もあります。そのため、一度の散布では十分な効果が得られない場合があり、繰り返し散布が必要になる可能性があります。また、乳剤には有機溶剤が含まれるため、腐った卵のような臭気を有することも、使用上の注意点と言えるでしょう。

マラチオンは、単剤だけでなく、他の殺虫剤と混合した製剤も存在します。これにより、より効果的な害虫防除が期待できる場合があります。

世界各国でのマラチオンの使用状況

マラチオンは、アメリカでは農業、住宅造園、公衆衛生（蚊の防除）などで広く用いられてきました。特に、1980年代のカリフォルニア州におけるチチュウカイミバエ防除においては、大規模な空中散布が行われた事例があります。また、西ナイルウイルスを媒介する蚊の防除にも使用されています。

カナダやオーストラリアでも、西ナイルウイルスやチチュウカイミバエ対策として使用されてきた歴史があります。アメリカでは、アタマジラミやシラミの駆除に低濃度のマラチオンローションが使用されていますが、薬剤耐性を持つシラミの出現が懸念されています。

マラチオンの安全性と有害性

適切な使用方法を守れば、農作物や使用者への安全性は確保されているとされています。毒物には指定されておらず、一般的に購入可能です。

マラチオンの毒性は、コリンエステラーゼ阻害作用によるものです。マラチオン自体は毒性が低いですが、体内でマラオクソンというより強い毒性を持つ物質に代謝されます。しかし、哺乳類ではこの代謝が少ないため、選択毒性を持つと言われています。

それでも、マラチオンの中毒症状として、吐き気、嘔吐、発汗、下痢、腹痛、頭痛などが見られ、重症化すると意識混濁や呼吸困難に至る可能性もあります。

マラチオンは可燃性があり、燃焼時に有毒ガスを発生します。また、水生生物やミツバチなどにも強い毒性を示します。金属や一部のプラスチック、ゴムを腐食させる可能性もあります。

マラチオンをめぐる議論

近年、マラチオンの発達神経毒性や発癌性に関する議論が活発化しています。FAO/WHO合同残留農薬専門家会議などは発達神経毒性を否定する見解を示していますが、アメリカ合衆国環境保護庁は発癌性を示唆する証拠があると分類しています。動物実験においても、肝臓癌や腫瘍の発生が報告されています。また、両生類への影響も懸念されており、低濃度でも致死的であるとの研究結果も発表されています。

さらに、過去の事故やマラチオンが検出された食品に関する事件なども、マラチオンの安全性に関する議論を複雑にしています。

まとめ

マラチオンは長年使用されてきた効果の高い殺虫剤ですが、その安全性と環境への影響については、継続的な監視と研究が必要不可欠です。適切な使用とリスク管理が、マラチオンのメリットとデメリットを秤にかけて、より安全な社会の実現に繋がるでしょう。

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