マラーティー語映画

インド西部マハーラーシュトラ州の中心都市ムンバイに拠点を置く映画産業は、マラーティー語で製作される作品群を指します。この映画産業は、インド国内において最も長い歴史を持つものの一つとして知られており、映画創成期からの重要な役割を担ってきました。規模こそ巨大なヒンディー語映画産業に譲りますが、娯楽税の免除措置などもあり、独自の成長を続けています。

黎明期とサイレント時代

マラーティー語映画の歴史は、1912年にダーダーサーヘブ・トルネが手掛けた『Shree Pundalik』の公開から始まりました。これはマラーティー語で製作された初の映画とされています。翌1913年には、インド映画の父として知られるダーダーサーヘブ・パールケーが、マラーティー人のスタッフとマラーティー語で撮影した『ハリシュチャンドラ王』が公開され、これもまたマラーティー語映画の先駆けとして位置づけられています。この時代、コールハープルは映画製作の中心地として栄え、多数の製作会社が設立されました。バーブラーオ・パインタルは1918年にマハーラーシュトラ映画会社を立ち上げ、多くのサイレント作品を発表しましたが、やがて到来するトーキー映画の時代には関心を示さず、会社を解散させました。

トーキー化と初期の成果

トーキー映画の時代に入ると、マラーティー人が所有するプラバート映画会社のような有力な製作会社が登場しました。同社が製作した『Sant Tukaram』は、1937年のヴェネツィア国際映画祭でインド映画として初めて最優秀作品賞を受賞する快挙を達成。また、1953年にはプラハード・ケーシャーヴ・アトレー監督の『Shyamchi Aai』が第1回国家映画賞の長編映画賞を受賞するなど、質の高い作品が生まれ始めました。

黄金期とその後の流れ

V・シャンタラムやプラハード・ケーシャーヴ・アトレーらが活躍した黄金時代を経て、1960年代には伝統的な大衆演劇であるタマーシャや家族の絆を描くドラマが、1970年代にはダーダー・コンドケーによるコメディや風刺的なテーマを扱った作品が人気を博しました。1980年代にはアショーク・サラーフやラクシュミカント・バルデといったコメディスターや、マヘーシュ・コータレ、サチンといった新しい世代の映画製作者が現れます。マヘーシュ・コータレ監督の『Dhumdhadaka』のようなヒット作は若年層を取り込み、初のシネマスコープ作品も生まれるなど、技術的な革新も進みました。

一時的な困難と再興

かつてインド各地で認知され始めていたマラーティー語映画産業ですが、特定の強力なジャンルを確立できず、一時的に勢いを失いました。その主な原因としては、ムンバイという同じ拠点で巨大なヒンディー語映画産業が圧倒的な影響力を持っていたこと、さらに作品の宣伝不足、配給網の弱さ、資金調達の難しさ、そしてテレビの普及などが挙げられます。加えて、マハーラーシュトラ州政府がヒンディー語映画を優先的に奨励したため、他の地域映画のように強力な公的支援を得られなかったことも衰退の一因となりました。

しかし、マラーティー語映画はここ数十年で見事な再興を遂げ、商業的成功と批評的評価の両方を兼ね備えた作品を多数生み出しています。従来の枠を超えた多様な題材や、人間の内面に深く切り込む作品が登場するようになりました。これは監督や脚本家が世界の映画に触れ、新しい物語や革新的なコンセプトを生み出している結果と言えます。

技術革新と支援強化

技術面でも進歩が見られ、2003年には初めてドルビーデジタルが導入され、2004年にはデジタル特殊効果が活用されました。質の高い作品は国内外で評価を得るようになり、2004年の『Shwaas』、2009年の『ハリシュチャンドラの工場』はアカデミー外国語映画賞のインド代表作品に選出され、国際的な注目を集めました。州政府は助成金制度を設け、製作会社の関心も向上。『Shwaas』の成功後、多くの企業が参入。テレビでの旧作放映や専門チャンネル開設もプロモーションに貢献しました。

近年の躍進

2010年代には芸術性の高い作品が新ジャンルを確立し、『Natarang』（2010年）のような画期的なミュージカル映画がヒットしました。2013年には初の3D映画も登場。そして2016年、『Sairat』はマラーティー語映画史上初の興行収入10億ルピー突破という歴史的な記録を打ち立て、産業の復興を決定づけました。

主な映画賞

マハーラーシュトラ州映画賞
フィルムフェア賞 マラーティー語映画部門

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