マリアンヌ・ノース

マリアンヌ・ノース：植物を愛した旅する画家

マリアンヌ・ノース（Marianne North, 1830年10月24日 - 1890年8月30日）は、ヴィクトリア朝時代のイギリス人女性であり、植物画家、博物学者、そして旅行家として名を馳せました。彼女は生涯を通じて世界中を旅し、その足跡はヨーロッパ、アジア、南北アメリカ、アフリカ、オーストラリアにまで及びます。各地で目にした珍しい植物や風景を、色彩豊かで生き生きとした植物画として記録し、後世に多大な影響を与えました。

生い立ちと旅への目覚め

マリアンヌは、イースト・サセックス州のヘイスティングスで、貴族であるノース男爵の家系に生まれました。父フレデリック・ノースは庶民院議員を務め、彼女自身も、かつて首相を務めたギルフォード伯爵フレデリック・ノースと縁戚関係にありました。幼少期から恵まれた環境で育ち、オペラ歌手から声楽を学んだ時期もありましたが、1855年に母を亡くしたことが彼女の人生を大きく変えます。父と共に海外を旅するようになり、異文化や自然の美しさに触れる中で、植物への深い愛情と探求心が芽生えていったのです。

世界を巡る植物画家の誕生

1869年に父が亡くなると、マリアンヌは単身で世界各地を巡る旅に出ます。彼女は、ただ観光地を巡るのではなく、人跡未踏の地にも足を踏み入れ、そこでしか見られない珍しい植物を求めて探求しました。そして、その植物の姿を、詳細な観察眼と卓越した絵画技術によって、キャンバスに鮮やかに描き出していきました。1875年から1876年にかけては日本にも滞在し、横浜、神戸、京都などの都市を訪れています。日本庭園の繊細な美しさや、日本の植物相にも魅了されたことでしょう。

キューガーデン、そして後世への影響

マリアンヌ・ノースの死後、彼女の貴重な植物画コレクションは、ロンドンにある王立植物園キューガーデンに寄贈されました。そして、彼女の功績を称え、キューガーデンにはマリアンヌ・ノース・ギャラリーが開設され、現在も多くの人々が彼女の作品に触れることができます。また、アカテツ科の植物には、彼女の名前にちなんだノルティア属（Northia）という名前がつけられています。彼女の作品は、単なる植物図鑑としてだけでなく、当時の社会情勢や文化、そして彼女自身の冒険心や植物への愛情を伝える貴重な資料として、今もなお研究者や芸術家たちにインスピレーションを与え続けています。

著作

Marianne North: A Vision of Eden: The Life and Work of Marianne North: Life and Works of Marianne North, Webb & Bower (1986) ISBN 0-906-67118-3
Marianne North: Recollections of a Happy Life: Being the Autobiography of Marianne North, University of Virginia Press (1993) ISBN 0-813-91469-8

もう一度検索