マリア・ニコラエヴナ (ニコライ2世皇女)

マリア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ大公女は、1899年6月26日（ロシア暦6月14日）、ロシア最後の皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の第三子として、ペテルゴフの離宮で生を受けました。

幼少期と家族

幼い頃のマリアは、上の姉であるオリガ、タチアナとは対照的に、ふっくらとして健康的な子供でした。彼女は特に末妹のアナスタシアと仲が良く、「小さなペア」と呼ばれていました。4人の姉妹は「OTMA」という独自のサインを結束の象徴として用いました。彼女たちは質素な環境で育ち、硬い簡易ベッドで眠り、冷水浴を行うなど厳しい教育を受けましたが、思春期になるとより快適な生活様式を取り入れ始めました。マリアは父親のニコライ2世を非常に慕い、度々「保育室」を抜け出して父親に会おうとしました。

ロマノフ家の子供たちは、ツァールスコエ・セローのアレクサンドロフスキー宮殿で外界から隔絶されて育ちました。皇后アレクサンドラの社交嫌いもあり、ロマノフ家の親戚との交流は限られていました。特にニコライ2世の母親である皇太后マリア・フョードロヴナや姉妹たちは、アレクサンドラの生活様式を批判し、距離を置いていました。しかし、マリアたちは叔母のオリガ・アレクサンドロヴナ大公女とは親しく、彼女の計らいでサンクトペテルブルクの社交の場に触れる機会も得ていました。

性格と外見

同時代の記録によると、マリアは「マリーのソーサー」と形容された大きな青い瞳と明るい茶色の髪を持つ美しい少女でした。穏やかで優しい性格でしたが、時には母親を困らせるようないたずらもしました。皇帝ニコライ2世はそんな彼女の人間らしい一面を喜びました。女官のアンナ・ヴィルボヴァはマリアの魅力を認めつつ、少し厚い唇が美しさを損なうと評しています。また、ロシア軍の兵士に強い関心を寄せ、将来は兵士と結婚して大家族を持つことを夢見ていました。

思春期と恋愛

マリアは早くから結婚や子供に関心を寄せ、兵士との結婚を望んでいました。1910年にはある若い男性に片思いし、母親アレクサンドラから助言を受けています。また、美貌で知られ、「ロマノフ家の伝統的な美しさ」を受け継いだと言われました。従弟のルイス・マウントバッテンは彼女に夢中になり、生涯その面影を追い続けたとされています。第一次世界大戦中には、軍総司令部を訪れた際に当直将校ニコライ・ドミトリエヴィッチ・デメンコフに惹かれ、手紙や電話での交流がありましたが、革命により本格的な関係には至りませんでした。姉妹はそんなマリアをからかうこともありました。

ラスプーチンとの関係

グリゴリー・ラスプーチンは、血友病の皇太子アレクセイの病状を鎮めたことで皇后アレクサンドラから絶大な信頼を得ていました。子供たちもラスプーチンと親しく交流し、手紙を交換していました。ラスプーチンが子供たちの部屋に出入りしていたことで騒動となり、女家庭教師が解雇される事件も起こりました。さらに、ラスプーチンと皇室、特にアレクサンドラや大公女たちとの性的関係を匂わせる噂やポルノ漫画が出回り、スキャンダルに発展しました。これらの噂にもかかわらず、皇室とラスプーチンの交流は彼の暗殺まで続きました。大公女たちはラスプーチンの死に大きな衝撃を受け、彼の葬儀に参列しています。

血友病保因者説

マリアは母親アレクサンドラと同様に、血友病の遺伝子保因者であった可能性が指摘されています。イギリス女王ヴィクトリアの子孫に血友病患者が多く出ている「王家の病」は、母方を通じて遺伝します。マリアの叔母オリガ・アレクサンドロヴナは、マリアの扁桃腺切除手術の際の激しい出血から、彼女を含めた4人姉妹全員が保因者であったと考えていました。2009年の皇帝一家の遺骨のDNA鑑定により、アレクセイが血友病Bであったこと、そして母親と姉妹の1人が保因者であることが証明されました。しかし、保因者がマリアであったかアナスタシアであったかについては、専門家の間でも見解が分かれており、最終的な特定には至っていません。

第一次世界大戦と奉仕活動

第一次世界大戦中、マリアとアナスタシアはまだ看護師になるには若かったため、ツァールスコエ・セローの病院を訪問し、負傷した兵士たちを見舞いました。兵士たちと交流し、ゲームをしたり話し相手になったりすることで彼らの士気を高めようと努めました。

革命と監禁生活

1917年2月、二月革命が勃発し、皇帝一家はツァールスコエ・セローの宮殿で自宅軟禁状態に置かれました。この混乱期にはしかが流行し、皇帝の子供たち全員が罹患しました。重体となったマリアは、回復するまで父親の退位を知らされませんでした。その後、一家はシベリアのトボリスクへ移送され、旧知事公舎での監禁生活が始まりました。トボリスクでは比較的友好的な警護兵たちと交流し、マリアは彼らの家族構成などをすぐに覚えました。監視下にあることを認識しつつも、外での散歩を楽しみ、この地での生活が続くなら幸せだと語ることもありました。しかし、情勢の変化を察知し、アナスタシアと共に日記や手紙を焼却しました。

エカテリンブルクでの最期

1918年4月、ニコライ2世夫妻が先にエカテリンブルクのイパチェフ館へ移送された際、マリアは唯一、両親に同行しました。両親と運命を共にしたいという強い希望があったと言われています。イパチェフ館ではより厳しい監視下に置かれましたが、マリアはここでも警護兵と積極的に交流しようとしました。しかし、この親しい態度は母親のアレクサンドラから叱責されることもありました。警護兵の中にはマリアに好意を抱く者もおり、19歳の誕生日にケーキを密かに持ち込む事件も起こりましたが、これにより監視体制はさらに強化されました。

1918年7月17日未明、ロマノフ一家と数名の従者は、エカテリンブルク市内のイパチェフ館の地下室に集められました。そこで銃殺隊が待っており、隊長のヤコフ・ユロフスキーが殺害の実行を告げました。一家は言葉にならない叫び声を上げました。最初の銃撃で数名が死亡または負傷する中、マリアは負傷しながらも生存していました。しかし、最終的には銃剣や銃撃によって他の家族と共に命を落としました。彼女の死因の詳細は不明な点もありますが、19歳という若さで悲劇的な最期を迎えました。

その後の経緯

皇帝一家の遺骨は長らく所在不明でしたが、1991年にエカテリンブルク近郊の森で9体の遺骨が発見されました。当初、欠落していた2体の遺骨がマリアとアレクセイのものであると推定されていましたが、特定の遺骨がどちらであるかについては議論がありました。しかし、2007年に別の場所から残りの2体の遺骨が発見され、その後の詳細なDNA鑑定により、これらがアレクセイ皇太子とマリア大公女のものであることが科学的に証明されました。これにより、1918年に皇帝一家全員がエカテリンブルクで殺害され、生存者はいなかったことが確定しました。

マリア・ニコラエヴナ大公女は、他の家族や従者と共に、1981年に在外ロシア正教会によって、2000年にはロシア正教会によって、新致命者として列聖されました。2009年にはロシア連邦検察庁により名誉回復が発表されました。発見されたマリアとアレクセイの遺骨については、2023年現在、モスクワに安置されており、正式な埋葬計画は進められているものの、ロシア正教会は身元確認のさらなる調査を求めています。

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