マリア・ヴェローヌ

マリア・ヴェローヌ：フランスの女性解放運動を牽引した弁護士

マリア・ヴェローヌ（1874-1938）は、フランスにおける初期の女性解放運動（第一波フェミニズム）を代表する人物です。弁護士として、また自由思想家、人権擁護活動家として、女性の権利拡大、貧困対策、児童福祉の向上に尽力しました。

生い立ちと教育

1874年、パリで生まれたヴェローヌは、決して裕福とは言えない家庭環境に育ちました。公立学校で教育を受け、数学教師を目指していましたが、16歳で父親を亡くし、家計を支えるために働きました。その後、パリ市の補助教員として採用され、非宗教的教育を推進する団体で無償の授業を担当しました。父親の影響から、ヴェローヌは早くから自由思想に触れ、15歳で国際自由思想会議の事務局に任命されるなど、積極的に社会活動に関わりました。しかし、こうした活動が教育委員会に快く思われず、教員の道を断たれることになります。

結婚と女性解放運動への参加

1900年に結婚、後に離婚し、1908年に弁護士のジョルジュ・レルミットと再婚。レルミットは、ドレフュス事件に関連する記事を掲載した新聞の編集委員を務めていました。ヴェローヌ自身も、早くから女性解放運動に身を投じ、1897年にはフェミニスト新聞『ラ・フロンド』の編集委員として活動を開始。テミスというペンネームで裁判記録を掲載するなど、ジャーナリストとしても活躍しました。また、労働組合の機関紙や社会主義系の新聞にも寄稿し、女性の雇用促進を訴えました。さらに、「女性の権利連盟」の事務局長、会長を歴任し、女性の権利擁護に尽力しました。

弁護士としての活躍

28歳で学業を再開し、法学の学位を取得。1907年に弁護士として登録し、女性として初めて重罪院で弁護を担当しました。これは、反軍国主義的な言動で訴えられた若者たちの弁護を引き受けたもので、ヴェローヌの弁論は大きな反響を呼びました。また、DV夫を殺害した女性の無罪を勝ち取るなど、弱者を守る弁護士として注目を集めました。児童福祉にも力を入れ、浮浪罪に問われた子供たちの救済、親権制度の改革に取り組みました。未成年者の売春問題にも取り組み、16歳の売春婦の無罪を勝ち取るなど、社会的に弱い立場の人々を擁護する活動を積極的に行いました。こうした活動が評価され、児童法典編纂のための議会外委員会の委員に任命され、児童裁判所に関する法整備に貢献しました。

女性参政権運動と晩年

1931年には女性弁護士の全国同盟を結成し、法曹界における女性の地位向上に貢献しました。女性の権利連盟の会長として、女性参政権運動を牽引し、候補者名簿に一定数の女性候補者を含めるよう働きかけたり、参政権運動の集会に参加したりしました。政党との連携には慎重な姿勢をとり、フェミニズム運動の独立性を重視しました。むしろ、女性の貧困対策を優先課題と考え、無料食堂や女性の作業所を設立するなど、具体的な支援活動にも力を入れました。

1936年、長年の功績が認められ、レジオンドヌール勲章を受章。レオン・ブルム内閣から女性大臣として入閣を打診されましたが、健康上の理由で辞退しました。1938年、63歳で生涯を閉じましたが、彼女の遺志は夫によって引き継がれ、「マリア・ヴェローヌ友の会」が結成され、その活動は後世に受け継がれています。

マリア・ヴェローヌは、弁護士として、活動家として、そして思想家として、多岐にわたる分野で女性の権利拡大に貢献した人物です。彼女の功績は、現代のフェミニズム運動にも大きな影響を与えています。

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