マリオ・アドルフ

イタリア人の外科医である父と、ドイツ人の看護師である母のもと、1930年9月8日にスイスのチューリッヒで生まれたマリオ・アドルフは、国際的に活躍するイタリア系ドイツ人の俳優です。身長は178センチ。

彼の俳優としてのキャリアは、1954年に公開されたドイツ映画『08/15』で始まりました。この作品でドイツ兵を演じたアドルフは、瞬く間にドイツを含むヨーロッパで人気を獲得し、やがてその活動の場をヨーロッパ域外へと広げていきます。『ダンディー少佐』（1965年）や、アガサ・クリスティ原作の映画化作品『姿なき殺人者』（同1965年）といった海外作品への出演も増え、その存在感を確立しました。1961年には、イヴ・シャンピが監督を務めた日本（松竹）とフランスの合作映画『スパイ・ゾルゲ/真珠湾前夜』にも出演しており、早くから国際的な視野で活動していたことがうかがえます。

特にイタリア映画界との結びつきは深く、マカロニ・ウエスタンをはじめとする数多くの作品に出演しています。1982年に放送された、ケン・マーシャルやデーヴィッド・ウォーナーらが共演した国際共同製作のテレビミニシリーズ『マルコ・ポーロ/シルクロードの冒険』にも参加しました。また、イギリスBBCで放送されたジョン・ル・カレ原作のドラマ『スマイリーと仲間たち』（Smiley's People）ではドイツ人クラブオーナーを、イタリアのテレビ番組『Zu Gino』ではメインキャラクターを演じるなど、テレビの世界でもその才能を発揮しています。現在もなお、ドイツの映画やテレビドラマを中心に精力的に活動を続けています。

1960年代にイタリア主導で製作され、世界的にヒットした西部劇、通称マカロニ・ウエスタンには、アドルフをはじめとする多くのドイツ語圏の俳優が出演しました。これは、西ドイツの製作会社がイタリアとの合作に積極的に関わっていたことが大きな理由です。アドルフもこの流れの中で、1963年に西ドイツが主導しクロアチア（旧ユーゴスラビア）でロケが行われたウィネットー・シリーズの第1作『アパッチ』を皮切りに、ヨーロッパ各地で製作される西部劇に出演するようになります。これらの作品では主に脇役や悪役を演じました。例えば、チェコスロバキアで撮影されたブラッド・ハリス主演の『アーカンソー征服』（1964年/西ドイツ・イタリア・フランス合作）、スペイン領カナリア諸島で撮影されたエドマンド・パーダム主演の『サンタ・クルスへの最後の乗車』（1964年/西ドイツ・オーストリア合作）などがあります。さらに、サム・ペキンパー監督による米国西部劇『ダンディー少佐』（1965年）にも、騎兵隊員の一人として出演しています。この時の起用は、オーストリア出身の女優センタ・バーガーと共に、ドイツ語圏を含むヨーロッパ市場を意識したものであったと言われています。マカロニ・ウエスタン本編では、ジュリアーノ・ジェンマと共演した『暁のガンマン（さすらいの用心棒）』（1968年）で息の合った演技を見せ、セルジオ・コルブッチ監督の『スペシャリスト』（1969年）ではメキシコ山賊を演じるなど、個性派俳優として強い印象を残しました。1970年には、舞台を現代に移した西部劇とも分類されるイスラエル撮影の『デッドロック』で主演を務め、この作品は2021年に日本でも劇場公開されています。マカロニ・ウエスタンで培った経験は、その後のキャリアにも影響を与え、フェルナンド・ディ・レオ監督の『皆殺しハンター』（1972年）やステファーノ・バンツィーナ監督の『黒い警察』といった、当時の流行を取り入れた現代アクション映画への出演にもつながりました。

私生活では、1962年に女優のリス・フェルホーフェンと結婚し、娘のステラをもうけましたが、2年後に離婚しました。1985年にはモニク・フェイと再婚しています。俳優としてのキャリアの中で、いくつかの著名な作品への出演を辞退した経験があります。フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』や、ビリー・ワイルダー監督の『ワン、ツー・スリー/ラブハント作戦』への出演依頼を断ったことは、後に後悔の念を抱いたと語っています。一方で、サム・ペキンパー監督の『ワイルドバンチ』（1969年）におけるマパッチ将軍の役については、その暴力的な描写が自身の感性に合わないと感じたため、辞退したという明確な理由があったエピソードも残されています。長年にわたる映画界への貢献に対し、2000年にはバイエルン映画賞の栄誉賞が授与されました。多岐にわたるジャンルと国境を越えた活躍を通じて、マリオ・アドルフはヨーロッパ映画史において、欠かせない個性と存在感を放つ俳優としてその地位を確立しています。

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