マリオ・デル・モナコ

マリオ・デル・モナコ（Mario Del Monaco, 1915年7月27日 - 1982年10月16日）は、イタリアを代表するテノール歌手の一人です。特に、ドラマティックな表現力と力強い歌声で知られ、テノーレ・ドランマーティコとして世界的な評価を得ました。日本では、その輝かしい声質から「黄金のトランペット」と形容されました。

生涯

デル・モナコは、1915年にイタリアのガエータで生まれました。公式にはフィレンツェ生まれとされていましたが、本人は来日時のインタビューでガエータ生まれであることを明かしています。幼少期の思い出はフィレンツェにあるものの、音楽家としてのキャリアはペーザロの音楽院で声楽を学んだことから始まりました。A.メロッキに師事した後、トゥリオ・セラフィンの目に留まり、ローマ歌劇場で研鑽を積みました。

1940年、ミラノのプッチーニ劇場でプッチーニの『蝶々夫人』のピンカートン役でデビューを果たしました。その後、第二次世界大戦の影響で一時活動を中断しましたが、戦後すぐに活動を再開。1946年には、アレーナ・ディ・ヴェローナでの『アイーダ』のラダメス役で大成功を収めました。これを機に、サン・カルロ劇場、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス（1946年）、スカラ座（1947年）、メトロポリタン歌劇場（1951年）、ウィーン国立歌劇場（1957年）など、世界の主要な歌劇場で次々とデビューを果たしました。

1950年には、ブエノスアイレスのテアトロ・コロンでヴェルディの『オテロ』を初めて歌い、以降、この役は彼の代名詞となりました。1972年までに200回以上（実際には誇張された説もある）オテロ役を演じ、その圧倒的な歌唱力と表現力で観客を魅了しました。

1963年には自動車事故に遭い、約1年間の休養を余儀なくされましたが、その後も活動を継続。1970年代以降は声楽教師としての活動に重点を置きました。1982年10月16日、心臓発作により67歳で亡くなりました。

息子ジャンカルロはオペラ演出家、クラウディオは建築家として活躍しています。弟子にはアントニオ・カランジェロ、マウロ・アウグスティーニらがいます。

レパートリーと録音

デル・モナコの代表的な役柄としては、『イル・トロヴァトーレ』のマンリーコ、『アイーダ』のラダメス、『アンドレア・シェニエ』のアンドレア・シェニエ、『道化師』のカニオなどが挙げられます。中でも、『オテロ』のタイトルロールは彼の当たり役として知られています。また、『アンドレア・シェニエ』については、作曲家のジョルダーノ本人から直接指導を受け、「私のシェニエ」と称されたほど高い評価を得ていました。

LPレコード録音の発展期に活躍したデル・モナコは、デッカ・レコードとの専属契約により、数多くのオペラ全曲録音に参加しました。これらの録音は、レナータ・テバルディ、ジュリエッタ・シミオナート、エットーレ・バスティアニーニ、アルド・プロッティ、チェーザレ・シエピなど、当時の名歌手たちとの共演による貴重な記録として、現在でも高い評価を受けています。

日本との関わり

デル・モナコは、1959年のNHKイタリア歌劇団公演で初来日し、『オテロ』と『カルメン』に出演しました。その後、1961年と1969年にも来日公演を行っています。1963年の来日公演は、内臓疾患のためキャンセルとなりました。また、1956年の初来日も予定されていましたが、スキャンダルによりキャンセルとなっています。

日本公演では、飛行機を避け船で来日し、喉を大切にするために常にマフラーを巻いていたというエピソードが残っています。また、『オテロ』の初日には極度の緊張に襲われ、夫人の助けを借りて舞台に立ったという逸話も伝えられています。

『道化師』のアリア「衣装をつけろ」後の演技は、デル・モナコの真骨頂として知られていましたが、日本の観客の熱狂的なブラボーの声にかき消されてしまったというエピソードも残っています。

参考文献

福原信夫「イタリアオペラへの招へい」『オペラのすべて86』音楽之友社、1986年。
黒田恭一「マリオ・デル=モナコ、まさに"オテロ"の代名詞 激しくドラマティックな歌唱 圧倒的な存在感」『クラシック 不滅の巨匠たち』音楽之友社、1993年。
* Elisabetta Romagnolo, "Mario Del Monaco, Monumentum aere perennius", Azzali, 2002

もう一度検索