エットーレ・バスティアニーニ

エットーレ・バスティアニーニは、1922年9月24日にイタリアのシエナで生まれ、1967年1月25日に44歳で亡くなった、20世紀を代表するバリトン歌手です。

幼少期は父親不在の貧しい家庭で育ちましたが、その才能は早くから開花し、地元の合唱団でバス歌手として歌い始めました。兵役後、1946年にプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』のコッリーネ役でプロデビューを果たします。その後、1948年にはストラヴィンスキーの『エディプス王』でスカラ座デビューも飾りました。バス歌手としての評価も得ていましたが、彼はより高い音域への挑戦を求め、バリトンへの転向を決意します。

発声法を徹底的に見直し、1952年にヴェルディの『椿姫』のジェルモン役で再デビューを果たし、バリトン歌手としてのキャリアをスタートさせました。その後の活躍は目覚ましく、1953年にはメトロポリタン歌劇場、1954年にはスカラ座、1958年にはウィーン国立歌劇場と、世界の名だたる歌劇場で次々とデビューを飾りました。バスティアニーニの歌声は、気品と哀愁を帯びた独特の音色、滑らかなレガート、そして正確な発音が特徴で、特にヴェルディのオペラにおいてその才能を遺憾なく発揮しました。『エルナーニ』のドン・カルロ、『リゴレット』、『トロヴァトーレ』のルーナ伯爵、『椿姫』のジェルモン、『仮面舞踏会』のレナート、『ドン・カルロ』のロドリーゴ、『運命の力』のドン・カルロ・ディ・ヴァルガスなど、数々の役で高い評価を得ています。舞台での演技については賛否両論ありましたが、その端正な容姿と凛々しい舞台姿は、多くの観客を魅了しました。

1950年代のオペラ黄金期には、ソプラノのレナータ・テバルディやマリア・カラス、テノールのマリオ・デル＝モナコ、ジュゼッペ・ディ・ステファーノ、フランコ・コレッリなど、錚々たる名歌手たちと共演し、数々の伝説的な舞台と録音を残しました。しかし、彼が全曲録音を残せなかった役の一つに、ヴェルディの『オテロ』のイヤーゴ役があります。1960年にデッカ・レコードがカラヤン指揮、テバルディ、デル＝モナコとの共演で同曲の録音を開始しましたが、バスティアニーニはカラヤンとの意見の相違から降板し、代わりにアルド・プロッティが起用されることとなりました。

1962年、バスティアニーニは発声に異変を感じ、診察の結果、咽頭癌と診断されました。外科手術も検討されましたが、彼は声帯への影響を恐れて放射線治療を選択しました。しかし、放射線治療も声帯への悪影響を避けられず、1963年頃から彼の歌唱力はかつての輝きを失ったと評されるようになりました。当時、彼の病状は本人と医師以外には知られておらず、不調は単なる発声障害であると一般的には考えられていました。舞台への出演機会が徐々に減る中、1965年には長年の念願だった『オテロ』のイヤーゴ役をカイロで一度だけ演じました。しかし、癌の転移により健康状態は悪化し、1967年にガルダ湖畔のシルミオーネにて、44歳という若さでこの世を去りました。

バスティアニーニは、晩年の1963年と1965年に、NHKイタリア歌劇団の公演で2度来日しています。1965年には、日本で最後のスタジオ録音となるイタリア歌曲集をレコーディングしました。

彼の功績は、今日でも多くの音楽ファンに語り継がれています。

参照元：エットレ・バスティアニーニ研究会, Associazione Ettore Bastianini（イタリア語）

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