マリオ・ブルネロ

イタリアのチェリスト、マリオ・ブルネロは、1960年10月21日にトレヴィーゾ県カステルフランコ・ヴェーネトで生まれた。幼少期からチェロに親しみ、ヴェネツィア音楽院でアドリアーノ・ヴェンドラメリ、アントニオ・ヤニグロといった名教師に師事し、その才能を磨いた。

彼のキャリアにおいて最大の転換点となったのは、1986年に開催されたチャイコフスキー国際コンクールである。世界中から才能あるチェリストが集まるこの権威ある大会で、ブルネロはチェロ部門の第1位に輝いた。この偉業は、彼を国際的なクラシック音楽界の舞台へと押し上げる決定的な契機となった。

コンクール優勝後、ブルネロは世界各地の主要なコンサートホールで演奏活動を展開するようになる。指揮者との共演も数多く、クラウディオ・アバド、リッカルド・ムーティ、ズビン・メータ、小澤征爾といった、楽壇を代表する巨匠たちのタクトのもと、協奏曲などを披露し、その卓越した技術と豊かな音楽性で聴衆を魅了した。

ソロ活動と並行して、彼は室内楽にも深い愛情を注いでいる。ピアニストのマッシモ・ソメンツィやアンドレア・ルッチェーニ、ヴァイオリニストのギドン・クレーメル、サルヴァトーレ・アッカルド、フランク・ペーター・ツィンマーマンといった、世界的に活躍する名ソリストたちとの共演を通じて、アンサンブルにおける緊密な対話と響き合いの可能性を探求している。

マリオ・ブルネロの活動は、クラシック音楽の伝統的な枠に留まらない。異分野との積極的に交流し、新たな表現を模索している。ジャズ・ミュージシャンであるヴィニチオ・カポッセラやユリ・ケインと共にジャズ・フェスティバルに参加したり、演劇公演ではマッダレーナ・クリッパやマルコ・パオリーニといった俳優たちと共演するなど、ジャンルを超えたコラボレーションを展開。特に、バッハ作品に焦点を当てた革新的なプロジェクトは注目を集めている。

また、ブルネロは指揮者および教育者としても重要な役割を果たしている。彼はイタリア弦楽合奏団を設立し、その音楽監督兼指揮者として活動している。さらに、シエナのキジアーナ音楽院の夏期専門コースや、イタリア屈指の音楽教育機関であるサンタ・チェチーリア国立アカデミアで教鞭を執り、次世代を担う若い音楽家たちの育成に情熱を注いでいる。

彼の演奏レパートリーは極めて幅広い。バロック時代から現代作品に至るまで多岐にわたり、ジャズへのアプローチも見られる。特にバッハの無伴奏チェロ組曲には特別な思い入れがあり、1993年から1994年にかけて、その全曲を録音し高い評価を得ている。彼が愛用するチェロは、17世紀に名工ジョヴァンニ・パオロ・マギーニによって製作された銘器である。この楽器は、過去にベネデット・マッツァクーラティや、イタリア弦楽四重奏団のチェリストであったフランコ・ロッシといった著名な演奏家が所有していた歴史を持つ。

国際的な活動に加え、ブルネロは故郷であるカステルフランコ・ヴェネトの文化振興にも尽力している。かつて鉄工所として使われていた建物を改修した空間「カパンノーネ・アンティルギーネ」を活動拠点とし、コンサート、レクチャー、マスタークラスなどを開催。この取り組みは、スイス・イタリア語放送によるドキュメンタリー「In alto con la musica」でも紹介された。

さらに、イタリア北部の美しい山岳地帯、ドロミテを舞台とするユニークな音楽祭「ドロミテの響き」には、第1回から参加している。自然の中でチェロを奏でるというスタイルは、彼の音楽観を象徴する活動の一つとなっている。

マリオ・ブルネロは、比類なきチェロ演奏技術と、クラシックの枠に囚われない探求心、そして教育者としての情熱を併せ持つ、現代を代表する音楽家の一人と言えるだろう。彼の多角的な活動は、チェロ音楽の新たな可能性を広げ続けている。

もう一度検索