マリヤム・ウッザマーニー・ベーグム

マリヤム・ウッザマーニー・ベーグム（Maryam uz-Zamani Begum）は、16世紀から17世紀にかけてのムガル帝国において、極めて重要な地位を占めた皇妃です。1542年10月1日に生を受け、1623年5月19日にその生涯を閉じました。彼女はムガル帝国第3代皇帝アクバルの妃であり、帝国の後継者たる第4代皇帝ジャハーンギール帝の生母として歴史に名を刻んでいます。資料によっては、ハルカー・バーイー、ジョーダー・バーイー、あるいはヒール・クンワーリーといった別名で言及されることもあります。

彼女は、北インドのラージャスターン地方にあった有力なラージプート王国の一つ、アンベール（現在のジャイプル）の君主であったバール・マルの娘として生まれました。彼女にはバグワント・ダースという兄弟がいました。1562年、ムガル帝国の拡大政策の下で、父バール・マルは皇帝アクバルとの同盟締結を決めます。この重要な盟約を確固たるものとするため、バール・マルは娘であるハルカー・バーイーをアクバル帝に嫁がせることを選びました。同年2月6日、アンベール近郊のサーンバルにおいて、二人の結婚式が執り行われました。この結婚は、ムガル帝国とラージプート諸王国の関係において、政治的にも象徴的にも大きな意味を持つ出来事となりました。

彼女の結婚が特筆される点の一つは、彼女がムスリムである皇帝に嫁いだにもかかわらず、自らの信仰であるヒンドゥー教を改宗することなく維持したことです。当時のイスラーム王朝において、異教徒の妃が信仰を変えずに宮廷で地位を保つことは稀であり、これはアクバル帝の進めた広範な宗教的寛容政策、特にヒンドゥー教徒に対する融和的な姿勢を示す重要な事例とされています。信仰は自由でありながらも、彼女は皇帝から「マリヤム・ウッザマーニー」（「時代のマリヤ」という意味）という、非常に尊厳ある称号を与えられ、宮廷内で確固たる地位を築きました。

マリヤム・ウッザマーニーは、ムガル帝国の安定した継承に不可欠な後継者を生むという、皇妃としての最も重要な役割を果たしました。1569年8月31日、当時のムガル帝国の新首都であったファテープル・シークリーにおいて、彼女は念願の皇子サリームを出産しました。この皇子こそが、後に偉大な皇帝ジャハーンギールとして帝位を継承する人物です。長年後継者誕生を熱望していたアクバル帝にとって、サリームの誕生は歓喜であり、マリヤム・ウッザマーニーの宮廷における地位を不動のものとしました。さらに、彼女は1572年9月11日には、アジュメールにて別の皇子ダーニヤールも出産しています。

夫であるアクバル帝が1605年10月に崩御した後も、マリヤム・ウッザマーニーはその生涯を終えるまで、皇太后として息子のジャハーンギール帝の治世を見守り、宮廷において一定の影響力を持ち続けました。そして1623年5月19日、ムガル帝国の主要都市であったアーグラで静かに息を引き取りました。彼女の死後、1623年から1627年にかけて、アーグラにあるアクバル帝の霊廟からおよそ1キロメートル離れた場所に、彼女のために壮麗な記念碑、すなわちマリヤム・ウッザマーニー廟が建設されました。この廟は、ヒンドゥー教徒の妃のために建てられたムガル建築の例として、今日でもその歴史的意義を伝えています。

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