マルカメムシ

マルカメムシ（学名：Megacopta punctatissimum）は、カメムシ目マルカメムシ科に分類される昆虫の一種です。カメムシの仲間としては珍しく、全体的に丸っこいユニークな姿をしており、日本国内ではこの科の中でも特に普通に見られる存在です。

特徴

この科に属するカメムシは、概して丸みを帯びた体型をしており、特に背中側を広く覆う大きな小楯板が特徴的です。前翅と後翅は、この小楯板の下にきれいに収まります。

成虫の体長は通常5〜5.5mm程度です。背面はつややかな暗黄色で、細かい黒い点刻が一面に散りばめられています。小さな頭部は暗黄色で、中央には溝があり、その両側に黒い筋が2本走っています。黄褐色の触角は5つの節からなります。前胸背の前方約3分の1には点刻が少なく、不明瞭な横縞のような模様が見られます。この部分と後方の境界線には、点刻が密に一列に並んでいます。また、体の正中線に沿って淡い色の縦筋が現れる個体もいます。体の大部分を覆う小楯板の表面には模様がなく均一ですが、基部の中央部分には横溝によって区切られた領域があります。

体の腹面側、胸部は光沢のない黒色です。腹部は光沢があり、中央部分は黒く、側面は黒褐色で、気門が黒く目立ちます。腹部の各節の前端は黒く縁取られ、側面には黒い横筋が見られます。雄の腹部では、第3節より後方に短い柔らかな毛が密生しています。歩脚は黄褐色です。

幼虫の姿は成虫とはかなり異なります。背面は成虫のように丸く隆起せず、やや平らな円盤状で、腹部の縁は波打った形をしています。体色は緑色で、全身が直立した毛で覆われています。卵はバナナを短く平たくしたような独特の形状をしており、高さは約0.9mm、幅は約0.5mmです。

分布

日本では本州、四国、九州のほか、対馬、甑島列島、大隅諸島、トカラ列島などで確認されています。国外では朝鮮半島にも分布しています。2009年頃からは北アメリカにも侵入し、新たな生息域を拡大しながら、一部で害虫として認識されています。

生態

マルカメムシは年に一度だけ世代を重ね、成虫の状態で冬を越します。越冬場所としては、植物の根元や石の下など、比較的浅い地面の中で数匹が集まって身を寄せ合います。春になり活動を始めると、4月から6月にかけて食草の上に産卵します。主な食草はクズ、フジ、ダイズ、アズキ、ヌスビトハギといったマメ科植物ですが、ノイバラ、ウツギ、アケビ、ミカンなどの植物からも見つかることがあります。

産卵は主にマメ科植物の葉や茎に行われ、通常20〜30個の卵が二列にきれいに並べられます。卵から孵化した幼虫は、宿主植物の汁を吸って成長します。約2ヶ月の幼虫期間を経て、7月頃から新しい世代の成虫が現れ始めます。これらの新成虫は、特にクズの葉の上でよく見られます。10月から11月にかけて、成虫は越冬に適した場所を探して広範囲に分散を開始します。興味深いことに、成虫は越冬前に交尾は行わず、厳しい冬を乗り越えた後の春、食草の上で改めて交尾を行います。

共生細菌との関係

マルカメムシの消化器系、特に中腸の末端には「盲嚢」と呼ばれる袋状の器官があり、ここには「イシカワエラ」属の特定の細菌が大量に共生しています。メスのマルカメムシは、卵を3、4個産むごとに、この細菌を含んだ黒い粒を肛門から排出し、卵塊の近くに付着させます。孵化したばかりの幼虫は、この黒い粒を見つけ出し、口吻を差し込んで中の細菌を取り込みます。このようにして、共生細菌は母から子へと確実に受け継がれる仕組みを持っています。

この共生細菌は、植物の汁だけでは不足する栄養素を合成し、マルカメムシに提供するという、持ちつ持たれつの関係（相利共生）を結んでいます。実験的にこの共生細菌を持たせずに育てられた幼虫は、生存率が著しく低下し、もし成虫になっても、白く小さく柔らかい、通常とは異なる異常な個体になってしまうことが明らかになっています。

類似種など

同じマルカメムシ属には、タイワンマルカメムシ（M. cribraria）がおり、本種と非常に似ているため、一部の研究者からは同種と見なされることもあります。タイワンマルカメムシは、日本では主に琉球列島の沖永良部島より南の地域に分布し、国外では中国や東南アジアからオーストラリアにかけて広く見られます。日本国内でマルカメムシ属として知られているのは、このマルカメムシとタイワンマルカメムシの2種のみです。

また、フジなどによく見られるヒメマルカメムシ（Coptosoma biguttulum）も似た姿をしていますが、平野部では本種の方が一般的です。ヒメマルカメムシはマルカメムシよりもやや小型で、背面の体色が黒や紫色を帯びています。同じクズマルカメムシ属（Coptosoma）には、クズを食草とするクズマルカメムシ（C. semiflavum）もいます。この種はマルカメムシと同程度の大きさですが、やはり背面は黒く、小楯板の両端に黄色い斑点がある点で区別できます。クズマルカメムシ属は日本に10種以上が知られており、未同定種も含めるとさらに多くの種類がいますが、そのほとんどは小型で体色が黒っぽい種です。クズマルカメムシ属は世界に280種以上を数える大きなグループであるのに対し、マルカメムシ属は世界で22種ほどと、比較的小さなグループです。

利害

マルカメムシは農業害虫としても知られています。ダイズやアズキといったマメ科の主要な農作物に付着して汁を吸うほか、時にはイネの穂に多数が集まることもあります。幼虫も成虫も、基本的に果実ではなく茎や葉柄から養分を得るため、極端に個体密度が高くならない限りは、作物の収穫量に大きな影響を与えることは少ないと考えられています。

カメムシ類は一般的に不快な臭いを放つことから嫌われますが、特にマルカメムシの場合は、10月から11月にかけて越冬場所を探し求めて分散する時期に、家屋に侵入する事例が多数報告されています。この時期の晴れた日には、多くの個体が一斉に飛び立ち、そのまま室内に入り込んだり、屋外に干された洗濯物に付着したりすることがあります。マルカメムシの重要な食草であるクズが人里近くに普通に生えていることや、植生が破壊された後の開けた場所に優先的に繁茂することから、都市開発が進んだ造成地などでは、このような家屋侵入による被害や住民からの苦情が発生しやすくなっています。

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