甑島列島

甑島列島（こしきしまれっとう）

甑島列島は、鹿児島県薩摩川内市に属し、東シナ海に点在する列島です。上甑島、中甑島、下甑島の3つの主要な有人島と、周辺の小さな無人島群で構成されています。

## 名称の由来

甑島という名前は、中甑島の北部にある甑（こしき、蒸し器）の形をした大岩を「甑大明神」として崇拝したことに由来すると言われています。古くは「古敷島」「小敷島」「子敷島」「古志岐島」などとも表記されました。また、かつては「こしきじま」と呼ばれていましたが、2014年8月に薩摩川内市が国土地理院へ申請し、「こしきしま」に呼称が変更されました。

## 地理

列島は、いちき串木野市の沖合約45kmに位置し、全長約38km、幅約10kmの細長い形状をしています。その隔絶性から、歴史と民俗が色濃く残る地域として知られています。起伏に富んだ地形とリアス式海岸が特徴的で、かつての山脈の頂上部が海上に残ったと考えられています。

列島は北東から南西にかけて、上甑島、中甑島、下甑島の順に並んでいます。中甑島は面積と人口が小さいため、上甑島と合わせて扱われることが多いです。中甑島は、集落名から平良島（たいらじま）または単に平良と呼ばれることもあります。

各島の面積は、上甑島が約44.14km²、中甑島が約7.31km²、下甑島が約66.12km²です。上甑島と中甑島を合わせると、下甑島の約4/5の面積になります。下甑島の面積は、山手線の内側とほぼ同じくらいです。

2010年の国勢調査によると、各島の人口は、上甑島が2,488人、中甑島が308人、下甑島が2,780人でした。上甑島と中甑島を合わせると、下甑島とほぼ同じ人口です。最高標高地点は、上甑島が423mの遠目木山、中甑島が294mの木の口山、下甑島が604mの尾岳です。尾岳の尾根には、航空自衛隊の下甑島分屯基地が設置されています。

甑島列島は全体的に山が海に迫っており、平野部の発達が少ないです。上甑島と中甑島は比較的緩やかな丘陵地が広がりますが、下甑島は400〜500m級の山地が卓越しており、特に西岸には切り立った断崖が連なっています。

上甑島は縦の変化は少ないですが、里集落の陸繋砂州（トンボロ）、長目の浜、浦内湾など、横の地形的な変化に富んでいます。

## 主な島

### 有人島

上甑島（かみこしきしま）
中甑島（なかこしきしま）
下甑島（しもこしきしま）

### 無人島

野島
近島
双子島
沖の島
筒島（かせとう）
松島
弁慶島
由良島

上甑島の北東部には、野島、近島、双子島、沖の島、筒島、松島がまとまって存在し、中甑島の南には弁慶島があります。下甑島の地峡部西側には由良島があり、下甑島の西岸には松島やナポレオン岩などの奇岩が見られます。

## 気候

甑島列島の年平均気温は18.4℃と温暖で、東京や大阪よりも高いです。夏期の平均気温には大きな差はありませんが、冬期の平均気温には顕著な差が見られます。年降水量は2,430mmと多く、東京や大阪の1.5〜1.8倍の降水量があります。夏から秋にかけては台風の影響を強く受け、冬には季節風の影響を受けやすいです。台風の影響は、列島の西海岸よりも東海岸の方が大きいです。

## 歴史

### 古代・中世

甑島列島には、約8000万年前の白亜紀の地層が残っており、日本で初めてケラトプス類の化石が発見され、アジアでも貴重な発見とされています。上甑島の里遺跡からは、列島唯一の縄文土器が出土しています。

奈良時代には、甑島は薩摩隼人族の一つの拠点だったと考えられています。平安時代初期に編纂された『続日本紀』には「甑島」という名の初出が見られ、遣唐使船が甑島に停泊したという記述があります。また、平安時代中期の『和名抄』には、「甑島郡」や「甑島」という名前が登場します。

鎌倉時代中期には、小川氏が承久の乱の功績により甑島を賜り、その後370年間、13代にわたって統治を行いました。この時代から行政単位が上下に区分されました。里には、小川季直が築城した亀城があり、近隣の鶴城と合わせて鶴亀城と呼ばれています。

### 近世・近代

江戸時代には、甑島は島津藩の直轄地となり、地頭（領主）が派遣されました。里、中甑、手打には地頭仮屋が置かれました。下甑島東岸の金山海岸では、銅、金、銀などの採掘が行われ、薩摩藩の南蛮貿易の中継基地にもなりました。

甑島列島は、天草諸島や長崎と同様にキリシタン文化を受け入れた場所の一つであり、1638年には島原の乱の残党が処刑されました。1780年代には、天明の大飢饉により、下甑島の百姓が出水に、郷士が笠野原台地に集団移住しました。

1871年には鹿児島県に所属し、1889年の町村制施行に伴い、上甑島と中甑島が上甑村となり、下甑島が下甑村となりました。その後、上甑島では里が分離して里村となり、下甑島では藺牟田が分離して鹿島村となりました。

明治時代には、台風、飢饉、悪疫の流行などがあり、上甑島からは種子島や本土へ、下甑島からは種子島へ多くの人々が移住しました。

### 現代

1950年代をピークに、甑島列島の人口は減少を続け、過疎化が深刻化しました。特に1965年から1970年の間には、各村で20%以上の人口減少が見られました。

2004年には、甑島列島の各村は、川内市などの周辺自治体と合併し、薩摩川内市の一部となりました。

## 交通

### 列島外部との交通

甑島列島は、琉球諸島から天草、長崎、朝鮮半島、日本海へ向かう船の通り道にあり、琉球とのつながりが深いです。戦前までは、鹿児島本土よりも天草や長崎との結びつきが強い時代がありました。

1901年には、九州商船が本土と甑島列島を結ぶ航路を開きましたが、1928年には廃止され、串木野と甑島を結ぶ航路が開かれました。

現在は、甑島商船が、いちき串木野市の串木野新港からフェリーを運航しています。また、2014年には川内港と甑島を結ぶ高速船も就航しました。

### 列島内部の交通

昔は山道が主な交通手段でしたが、1960年代には自転車が普及し、1965年には里と中甑の間に初めてバスが通りました。

現在は、県道が5本通っており、レンタカー、タクシー、レンタサイクルも利用可能です。また、甑大橋の開通により、上甑島と下甑島が陸路でつながりました。

甑島には、薩摩川内市が運行するコミュニティバスも運行しています。

### 列島内の架橋

1993年には、上甑島と中甑島が、甑大明神橋と鹿の子大橋で結ばれました。2020年には、中甑島と下甑島を結ぶ甑大橋が開通し、列島内の移動が便利になりました。

## 自然・地形・地質

甑島列島の地形は、天草や長島の延長に位置し、地質的にも中生層の砂岩、頁岩、花崗岩が卓越しています。1981年には甑島列島が甑島県立自然公園に指定され、2009年には下甑島の鹿島断崖が日本の地質百選に選出されました。

## 生態系

海岸にはウミガメが上陸し、周辺海域は鯨類の回遊海域となっています。

甑島列島は、熱帯性の木生シダであるヘゴの自生北限地の一つであり、カラスバトが生息しています。

### カノコユリの自生地

甑島列島は、カノコユリの自生地として知られています。カノコユリは、夏に薄紅色の美しい花を咲かせます。しかし、なぜ湿気に弱いカノコユリが、高温多湿の甑島列島に自生するのかは解明されていません。

## その他の特徴

### 里集落の陸繋砂州

上甑島の里集落には、陸繋砂州（トンボロ）が形成されており、日本最大規模の陸繋砂州として知られています。

### 長目の浜（甑四湖）

上甑島には、長目の浜と呼ばれる、3つの池が砂州によって海と隔てられた景勝地があります。これらの池は「甑四湖」と呼ばれており、それぞれ塩分濃度や成層状態が異なっています。

### 武家屋敷跡の玉石垣

下甑島の手打と上甑島の里には、小川氏の統治時代の名残である武家屋敷通りがあり、玉石垣（丸石の石垣）が特徴的です。

## 経済

甑島列島の基幹産業は農林水産業です。特に水産業が盛んで、アジ、サバ、ブリなどの回遊魚や、キビナゴ、バショウカジキ、アワビなどの水産資源が豊富です。

農業では、水稲、サツマイモ、ソラマメ、パッションフルーツなどが生産されています。

観光業も近年発展しており、キャンプ場、海水浴場、ダイビング場などの観光施設が整備されています。

## 教育

甑島列島には、薩摩川内市立の中学校が4校、小学校が5校ありますが、いずれの学校も少子化による児童生徒数の減少に悩まされています。

## 文化

上甑島と中甑島には、内侍舞（ないしまい）が伝承されています。

下甑島には、トシドンという伝統的な民俗行事があり、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。

また、下甑島瀬々野浦では、フヨウの幹の皮を糸にして織った衣服（ビーダナシ）が確認されています。

## 作品の舞台

甑島列島は、小説、映画、漫画など、さまざまな作品の舞台となっています。

小説：堀田善衛『鬼無鬼島』、椋鳩十『孤島の野犬』
映画：「釣りバカ日誌9」、「大綱引の恋」
漫画：「Dr.コトー診療所」（モデル）

## 関連人物

甑島列島出身の著名人としては、梶原景季、楠木正行、町春草、本田成親、斉藤きみ子、小倉一郎、石原登、是枝伸彦などが挙げられます。

## ギャラリー

（写真や地図を挿入）

## 脚注

### 注釈

### 出典

### 参考文献

(参考文献リスト)

## 関連項目

* 万里ヶ島

## 外部リンク

(関連リンク)

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