マルガレーテ作戦

マルガレーテ作戦：ナチス・ドイツの同盟国制圧計画

1944年、第二次世界大戦の激化の中で、ナチス・ドイツは枢軸国内の同盟国、ハンガリー王国とルーマニア王国に対する軍事作戦「マルガレーテ作戦」を計画しました。イタリアの降伏という衝撃的な出来事をきっかけに、他の同盟国もドイツから離反する可能性を危惧したヒトラーは、両国の制圧を決定。ハンガリーを対象とした作戦をマルガレーテI、ルーマニアを対象とした作戦をマルガレーテIIと呼称しました。

作戦発動の背景

1943年9月、イタリアの降伏はドイツに大きな衝撃を与えました。この出来事を契機に、ヒトラーは他の同盟国も連合国側に寝返る可能性を警戒。ドイツ国防軍最高司令部（OKW）に対し、ハンガリーとルーマニアの占領計画の策定を命じました。マルガレーテ作戦はこの懸念から生まれたものです。当初は両国に降伏の兆候が見られず、作戦は実行されませんでした。

しかし、1944年に入ると、独ソ戦でソ連軍が優勢となり、ドイツ軍はソ連領内から後退を余儀なくされました。戦線が東欧へと移る中で、比較的弱体なハンガリーとルーマニアは次の標的となる可能性が高まりました。ドイツはこれらの国を枢軸側に繋ぎ止めるため、両国を占領し、親ドイツ政権を樹立することを計画したのです。

マルガレーテI：ハンガリーの制圧

1944年3月8日、ハンガリー首相カーロイ・ミクローシュが連合国と秘密裏に休戦交渉を行っていたことが発覚しました。この情報に激怒したヒトラーはマルガレーテIの実行を直ちに命令。OKWは3月19日を実行日と決定しました。

3月18日、ヒトラーはハンガリー王国の摂政ホルティ・ミクローシュをドイツのベルクホーフに招致。会談で、ヒトラーは12個師団のハンガリーへの派遣、全産業の軍事転換、ハンガリー・ルーマニア国境の部隊を東部戦線への転用などを要求。ホルティは激怒しましたが、ドイツ側の強硬な態度に屈し、要求を受け入れました。その後、ホルティは列車で帰国しましたが、ドイツ軍のハンガリーへの展開が完了するまで、列車は故意に速度を落とされ、帰国は遅れました。

3月19日午前4時、ドイツ軍はハンガリーに侵攻を開始。ハンガリー軍民は抵抗せず、むしろ歓迎する雰囲気すらありました。親ドイツ派のストーヤイ・デメが新しい首相となり、ホルティはブダペストのブダ宮殿に軟禁されました。ドイツは特使を派遣し、ハンガリー政府の監視を開始しました。一方、ミクローシュはトルコ大使館に亡命し、ドイツの手を逃れました。

マルガレーテ作戦後の展開

マルガレーテIにより、ドイツはハンガリーの資源を自由に利用できるようになり、東部戦線におけるハンガリー軍の戦力を増強することができました。しかし、ホルティの権威が完全に消滅したわけではなく、彼は連合国との休戦を密かに模索しました。このため、同年10月、ドイツは「パンツァーファウスト作戦」を実行し、ハンガリーを完全に支配下に置きました。

マルガレーテII：ルーマニアのクーデター

ルーマニアの指導者イオン・アントネスクは当初、熱心なヒトラー支持者であり、ドイツも彼の体制を信頼していました。しかし、1944年8月23日、ルーマニア国王ミハイ1世らによるクーデターが発生。アントネスクは逮捕され、新政府は直ちにソ連と休戦し、ドイツに宣戦布告しました。このため、マルガレーテIIは実行されませんでした。

まとめ

マルガレーテ作戦は、ナチス・ドイツが敗戦の色濃くなった状況下で、同盟国の離反を防ごうとした最後の抵抗と言えるでしょう。ハンガリーにおける作戦の成功は一時的にドイツの戦力を増強しましたが、最終的には同盟国の信頼を失い、敗戦を早める結果となりました。この作戦は、当時のドイツの焦燥感と、同盟国間の脆弱な関係を如実に示しています。

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