マルクス・ユニウス・ブルトゥス

マルクス・ユニウス・ブルトゥス：共和政ローマの悲劇的英雄

マルクス・ユニウス・ブルトゥス（紀元前85年 - 紀元前42年）は、共和政ローマ末期の政治家であり、その名はカエサル暗殺の首謀者として、現代においても広く知られています。シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』の主人公としても有名で、彼の生涯は、共和主義者の葛藤と、権力闘争の悲劇を象徴的に物語っています。

複雑な生い立ち

ブルトゥスは、共和政ローマの英雄、ルキウス・ユニウス・ブルトゥスの末裔でした。父は内乱に巻き込まれ殺害され、母は後にガイウス・ユリウス・カエサルと愛人関係にありました。そのため、ブルトゥスは幼少期に父を亡くし、カエサルを父親代わりのように慕っていたという複雑な生い立ちを持っています。歴史家の中には、カエサルがブルトゥスの実父だった可能性を指摘する者もいます。

ブルトゥスは、母方のセルウィリウス氏族に預けられ、養子縁組も経験しました。この経験が、彼の人格形成に影響を与えたことは想像に難くありません。

元老院議員としての活動

ブルトゥスは、叔父である小カトーの補佐官としてキャリアを始めました。キプロスでの勤務を経て、ローマに戻ると財務官に当選、元老院議員となりました。彼は、カエサル、ポンペイウス、クラッススの第一回三頭政治に対抗する勢力に属し、政治的立場を明確にしていました。

ローマ内戦が勃発すると、ブルトゥスは当初ポンペイウス側に加わりましたが、ファルサルスの戦いでポンペイウスが敗北すると、カエサルに恭順しました。カエサルは、ブルトゥスを寛大に迎え入れ、ガリア総督に任命するなど、厚遇を続けました。紀元前45年には法務官に推挙され、小カトーの娘ポルキアと結婚しています。

カエサル暗殺

カエサルが独裁官となり、権力を掌握すると、共和政の終焉を危惧する声が高まりました。暗殺計画が持ち上がり、ブルトゥスも加わることになります。カッシウス・ロンギヌスらによる誘いを受け、ブルトゥスはカエサル暗殺に参加しました。この決断は、個人的な感情よりも、共和政を守るという公的な信念に基づいたものであったと考えられています。彼の妻ポルキアもまた、暗殺に加わったと伝えられています。

元老院での暗殺は成功しましたが、ブルトゥスはその後、第二回三頭政治を形成したアントニウス、オクタウィアヌス、レピドゥスらと対立します。

フィリッピの戦い

紀元前42年、ブルトゥスとカッシウスは、アントニウスとオクタウィアヌスの軍とフィリッピで激突しました。この戦いでブルトゥスは敗北し、自害して生涯を終えました。アントニウスは、かつての友人であったブルトゥスの遺体に紫色の外套を掛け、手厚く葬るよう命じました。ブルトゥスの死後、妻ポルキアも自害したと伝えられています。

ブルトゥスの遺産

ブルトゥスは、カエサル暗殺に関与したことで、後世の評価が大きく分かれています。一方では共和政ローマを守るために行動した英雄と見なされ、他方では、恩義を忘れた裏切り者と見なされています。シェイクスピアの戯曲など、様々な創作作品において、ブルトゥスは異なる形で描かれており、彼の複雑な人物像が、現代においても人々の関心を集めていることを示しています。彼の生涯は、権力と理想、友情と裏切り、そして共和主義の苦悩を象徴する物語として、歴史に刻まれています。

彼の言葉「Sic semper tyrannis（専制者は斯くの如く）」は、民主主義を象徴する言葉として、アメリカ合衆国バージニア州のモットーにも用いられています。しかし、これもまた、彼の言葉として解釈されているものであり、真偽は不明です。

ブルトゥスの生涯は、複雑でドラマティックであり、後世に多くの問いを残す存在と言えるでしょう。

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