マルコ・コルテッリーニ

マルコ・コルテッリーニ（Marco Coltellini、1724年 5月24日 - 1777年 11月）は、18世紀後半にイタリアおよびヨーロッパの主要な宮廷で活躍した詩人、そして特にオペラのリブレット作家です。彼の作品は、同時代の著名な作曲家たちによって音楽化され、劇音楽の発展に寄与しました。

生涯と初期の活動

コルテッリーニはイタリアのリヴォルノで生まれました。若い頃はカトリックの聖職者となる道を選びましたが、後に聖職を辞し、俗世に戻って結婚しています。

1750年代末頃から、彼は主にカンタータやメロドラマのための詩を手がけるようになります。また、活動は文筆業にとどまらず、1762年には故郷リヴォルノで印刷所を買収し、出版事業にも乗り出しました。彼の劇音楽作家としての活動は、1761年にリヴォルノで初演されたジャン・フランチェスコ・デ・マヨ作曲のオペラ『アルメリア』以降、リブレット（オペラの台本）の執筆が中心となっていきました。

ウィーン宮廷での活躍

リブレット作家として頭角を現したコルテッリーニは、1763年にウィーンで初演されたトンマーゾ・トラエッタ作曲のオペラ『タウリスのイフィジェニア』で大きな成功を収めます。この作品の評価が高かったことから、彼は当時のヨーロッパ音楽の中心地の一つであったウィーンの宮廷に招かれることになります。ウィーンでは、長年宮廷詩人として絶大な影響力を持っていたピエトロ・メタスタージオの後継者として、新たな宮廷詩人の地位に就きました。

コルテッリーニはウィーン宮廷で約10年間活動しました。この期間に彼は、クリストフ・ヴィリバルト・グルック、ヨゼフ・ガスマン、そして若きヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトといった、当時の重要な作曲家たちと協働しています。ウィーン時代の代表的なリブレットには、グルック作曲の『テレマコ』（1765年初演）、ガスマン作曲の『アモーレとプシケ』（1767年初演）、そしてモーツァルト最初のオペラ・ブッファである『みてくれのばか娘』（1769年初演）などがあります。また、ジュゼッペ・スカルラッティ（1766-1767年頃）やアントニオ・サリエリ（1771年）がそれぞれ作曲した『アルミーダ』のリブレットも彼の手によるものです。

ウィーンでの活動において、コルテッリーニはラニエーリ・デ・カルツァビージが推進したオペラ改革の潮流に強く影響を受けました。彼は、当時の劇音楽の停滞を打破しようとする改革派の一員として、より劇的な表現と音楽・劇の統合を目指しました。オペラ・ブッファの分野では、しばしば著名な劇作家カルロ・ゴルドーニの既存の戯曲をオペラのリブレットとして改作する手法をとっています。

サンクトペテルブルク、そして晩年

1772年、コルテッリーニは活動の場をさらに東へ移し、ロシアのサンクトペテルブルク宮廷へと赴きます。ここでも彼は宮廷詩人として、劇音楽のリブレットを中心に執筆活動を続けました。サンクトペテルブルク時代には、かつてウィーンで成功を共にしたトラエッタと再び協働し、改革派オペラとされる『アンティゴナ』を書き上げています。この作品は1772年に初演されました。

彼の生涯最後の作品となったのは、ジョヴァンニ・パイジェッロ作曲のオペラ『ルチンダとアルミドーロ』のリブレットで、これは1777年に初演されています。

マルコ・コルテッリーニは、この最後の作品が上演されたのと同じ1777年の11月に、サンクトペテルブルクでその生涯を閉じました。彼の死については、当時のロシア女帝エカテリーナ2世を風刺したことによる毒殺説が一部で唱えられましたが、これは後に音楽学者のロベール＝アロイス・モーゼルなどによって批判的に検討され、現在では否定的な見解が主流となっています。

コルテッリーニは、聖職者から転身し、印刷業を経てオペラ台本の専門家となった異色の経歴を持ちます。ウィーンではオペラ改革に関わり、サンクトペテルブルクではロシアにおけるオペラ上演の発展に貢献するなど、18世紀後半のヨーロッパ各地で劇音楽の創造に関わった重要な人物の一人です。

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