マルスを退けるミネルヴァ

マルスの退けるミネルヴァ

ティントレットが1576年頃に制作した「マルスを退けるミネルヴァ」は、ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿のために制作された4点の神話画連作の一つです。この作品は、ギリシア神話のアレスとアテナ（ローマ神話のマルスとミネルヴァ）をモチーフに、ヴェネツィアの寓意を表現しています。

作品の構成

この絵画では、知恵と戦いの女神ミネルヴァが中心に描かれています。ミネルヴァは、戦争の神マルスを左手で押し退け、画面左側に描かれた「平和」と「豊穣」を守っています。「平和」はオリーブの冠をかぶり、散乱した武具の上に座る女性として描かれ、「豊穣」は頭上の果実と麦の穂で表現されています。この構図は、平和が戦争を退けることで、豊穣がもたらされるというメッセージを伝えています。

ミネルヴァはヴェネツィア共和国の知性の象徴として描かれており、17世紀の画家カルロ・リドルフィは、この絵画を「戦争を国家から遠ざけてヴェネツィアの繁栄を守るための元老院の知恵」の寓意と解釈しました。美術史家シャルル・ド・トルナイの研究によれば、この作品は「夏」と「大地」を象徴しており、連作全体が四季と四大元素を表しているとされています。

作品の特徴

この作品の特徴は、登場人物たちが対角線上にダイナミックに配置されている点です。また、「平和」の女性像は、ティントレットが同時期に制作した「聖アントニウスの誘惑」に登場する女性像と共通していることが指摘されています。ティントレットは、この作品を通じて、ヴェネツィアの平和と繁栄を強く表現しようとしました。

来歴

この連作は、ドゥカーレ宮殿の方形階段広間を飾った後、1716年に内閣議場前室に移され、現在に至ります。1581年にはフランチェスコ・サンソヴィーノによって言及され、1589年にはアゴスティーノ・カラッチによってエングレーヴィングが制作されました。また、1648年にはカルロ・リドルフィが絵画の意味について言及しています。2017年には修復が行われ、その美しさが保たれています。

連作

この作品は、ドゥカーレ宮殿のために制作された4点の連作の一部であり、以下の作品が含まれます。

ヴィーナスとアリアドネとバッカス
三美神とメルクリウス
* ウルカヌスの鍛冶場

これらの作品もまた、ヴェネツィアの繁栄や神話をテーマに描かれており、ティントレットの芸術的な才能を示す重要な作品群となっています。

まとめ

「マルスを退けるミネルヴァ」は、ティントレットの代表作の一つであり、ヴェネツィアの政治的な寓意を巧みに表現した作品です。この絵画は、ミネルヴァの知恵と力によって、平和と豊穣が守られる様子を描き、ヴェネツィアの繁栄を象徴しています。

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