マルス5号

マルス5号は、旧ソビエト連邦が実施した火星探査計画、通称「マルス計画」において、火星を周回しながら観測を行うことを目的に開発された宇宙船です。「3MS No.53S」とも称されます。1973年に地球を出発し、翌1974年に火星の周回軌道へ到達しましたが、技術的な問題により、その運用期間はわずか数週間という短いものに終わりました。

この探査機は、ソビエトのラヴォーチキン設計局によって製造された「3MS」という標準設計に基づいています。1973年には、マルス5号の前に同型機のマルス4号も打ち上げられています。また、3MS型は1971年にも「コスモス419号」として使用されましたが、こちらはロケットの不具合により地球周回軌道から脱出できませんでした。1973年の火星探査の機会には、軌道船であるマルス4号とマルス5号に加え、火星表面への着陸を目指す「3MP」型の着陸船、すなわちマルス6号とマルス7号も同時に打ち上げられています。

マルス5号には、火星の環境を詳しく調べるための多種多様な科学機器が搭載されていました。火星の表面や大気を撮影するための3台のカメラ（52mmベガ、350mmズルファー、パノラマカメラ）が主要な観測装置でした。さらに、電波によって大気を観測する電波望遠鏡、赤外線放射を測定するIR放射計、大気の組成や構造を調べる複数の光度計、そして大気中の微粒子などを分析する偏光計が含まれていました。これらに加えて、火星周辺の磁場を測る磁気計、太陽風や電離層のプラズマを検出するプラズマトラップと静電分析器、地表の元素を特定するガンマ線スペクトロメータ、そして大気・電離層観測用の無線プローブなど、幅広い観測能力を持っていました。

マルス5号は、1973年7月25日18時55分48秒（協定世界時UTC）に打ち上げられました。使用されたのは、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地81/24射点からのプロトンKキャリアロケットです。このロケットの最初の3段によって、宇宙船と上段のブロックDはまず地球の低軌道に投入されました。その後、ブロックDが再度噴射を行い、マルス5号を火星へと向かう太陽周回軌道に乗せました。

火星への旅の途中、マルス5号は軌道の微調整を2度実施しています。最初の軌道修正は1973年8月3日に、2回目の軌道修正は火星接近直前の1974年2月2日に行われました。そして、無事火星の周回軌道に到達しましたが、残念ながら機体に技術的な問題が発生したため、期待されていた長期的な科学観測を行うことは叶わず、軌道投入から数週間で探査機としての機能を停止しました。短い運用期間中にどれだけのデータが得られたかは明らかではありません。

マルス5号のミッションは、1973年にソビエトが実施した大規模な火星探査キャンペーンの一翼を担うものでした。技術的な困難に直面したものの、ソビエト連邦の火星への挑戦を示す重要な試みの一つと言えます。

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