マルチギガビット・イーサネット

マルチギガビット・イーサネット (Multi-gigabit Ethernet) の詳細解説

マルチギガビット・イーサネットは、2.5Gbps (2.5GBASE-T) および 5Gbps (5GBASE-T) の通信速度を持つイーサネット規格の総称です。これらの規格は、IEEE 802.3bzとして標準化されており、より高速なネットワーク接続のニーズに応えるために生まれました。

歴史的背景

マルチギガビット・イーサネットが求められるようになった背景には、無線LANの高速化が大きく影響しています。IEEE 802.11acなどの高速無線LAN規格が登場し、既存の1000BASE-T（1Gbps）の有線LANでは、その速度がボトルネックとなるケースが増えてきました。

より高速な10GBASE-T（10Gbps）の規格も存在しますが、普及率の高いカテゴリ5eケーブルが利用できないという課題がありました。そこで、既存のケーブルインフラを活かしつつ、1Gbpsと10Gbpsの中間的な速度を実現する規格として、マルチギガビット・イーサネットが開発されました。

2014年には、NBASE-TアライアンスとMGBASE-Tアライアンスが設立され、それぞれが異なるアプローチでマルチギガビット・イーサネットの標準化を目指しました。最終的には、両アライアンスが協力し、2016年にIEEE 802.3bzとして2.5GBASE-Tと5GBASE-Tが標準化されました。さらに、2020年には車載組み込み機器向けの規格として、IEEE 802.3chで2.5G/5GBASE-T1が標準化されています。

技術仕様

2.5GBASE-Tと5GBASE-T

これらの規格は、IEEE 802.3bzとして2016年に標準化されました。10GBASE-Tの技術をベースに、64b/65bのブロック変換、PAM-16、DSQ128変調といった伝送符号化方式を採用しています。伝送速度は、符号の動作レートを調整することで実現されています。具体的には、5Gbpsの場合は400MBaud、2.5Gbpsの場合は200MBaudとなります。

これにより、カテゴリ5eケーブルでは2.5GBASE-Tが、カテゴリ6ケーブルでは5GBASE-Tがそれぞれ最長100mの接続をサポートします。また、PoE (IEEE 802.3bt) もサポートしており、Wi-Fi6対応アクセスポイントなどの高速無線LAN機器への給電と同時に通信が可能となっています。

2.5G/5GBASE-T1

2020年にIEEE 802.3chとして標準化されたこの規格は、車載組み込み機器向けに、1対のツイストペアケーブルで最大15mの接続をサポートします。10GBASE-T1と共通の伝送符号化方式を採用しており、PAM4の動作レートを調整することで2.5Gbpsと5Gbpsの速度を実現しています。

端末側の要件

PCやNASでマルチギガビット・イーサネットの速度を最大限に活用するには、以下の点に注意が必要です。

USB端子とLANアダプタがUSB 3.2 Gen1（USB 3.1 Gen1, USB 3.0）に対応していること
ストレージデバイスやPCのインターフェースの転送速度
十分なメモリ容量

各規格における推奨環境

5GBASE-T

5Gbps以上の転送速度に対応したLANカード
M.2 NVMe SSD（PCI Express接続）
Serial ATA 3規格のHDD/SSD

2.5GBASE-T

2.5Gbps以上の転送速度に対応したLANカード
Serial ATA 2規格のHDD/SSD

普及と市場への影響

Wi-Fi 5 Wave 2やWi-Fi 6といった広帯域な無線LANの登場により、有線LANの1000BASE-Tがボトルネックになるケースが増えました。10GBASE-Tへの移行には、ケーブルの交換が必要となるため、コストが増大する問題がありました。

マルチギガビット・イーサネットは、既存のケーブルインフラを活かしつつ、より高速な通信を実現するための現実的な選択肢となりました。NBASE-Tアライアンスによる先行製品の登場や、10GBASE-T機器の価格下落により、個人レベルでも導入が容易になっています。

オートネゴシエーション機能により、100BASE-TX、1000BASE-T、10GBASE-T機器との互換性も確保され、より柔軟なネットワーク構築が可能です。マルチギガビット・イーサネットの登場は、高速なネットワーク環境をより身近なものにする上で重要な役割を果たしています。

参考情報

IEEE P802.3bz 2.5G/5GBASE-T タスクフォース
NBASE-T

この解説が、マルチギガビット・イーサネットについての理解を深める一助となれば幸いです。

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