マルチプレクサ

マルチプレクサとは

マルチプレクサ（Multiplexer）は、複数の入力信号を一つの出力信号にまとめる電子回路です。多重器、多重装置、多重化装置、合波器とも呼ばれます。略称としてMUXが用いられることもあります。主に通信分野やデジタル回路で活用されています。

通信分野でのマルチプレクサ

通信分野では、複数のデータストリームを一本のストリームに多重化する役割を担います。これにより、複数のデータ伝送を一つの回線で行うことができ、通信コストの削減に貢献します。送信側では、複数のデータストリームを多重化するために、元の帯域幅の合計に相当する帯域幅が必要となります。受信側では、多重化された信号を元の複数の信号に戻すためにデマルチプレクサが必要になります。

例えば、複数のIPネットワークのユーザーデータをまとめる際にマルチプレクサが使用されます。ルーターはこれを受け取り、内部プロセッサがデマルチプレクサの役割を果たし、個々のIPパケットに分割します。このように、マルチプレクサとデマルチプレクサはセットで用いられることが多く、一つの装置に両方の機能が搭載されている場合もあります。

実用例としては、人工衛星や宇宙船、遠隔操縦車両などから遠隔測定データを送る際に、マルチプレクサが用いられています。

デジタル回路におけるマルチプレクサ

デジタル回路におけるマルチプレクサは、n本の制御入力、2n本のデータ入力、そして1本のデータ出力を持つ回路です。回路図では、縦長の矩形や横長の台形として表現され、短辺に制御入力、台形の場合は広い側に入力、狭い側に出力が配置されます。

選択制御入力に基づいて、複数の入力信号の中から一つを選んで出力します。例えば、2入力マルチプレクサは、選択制御入力Sの値によって入力Aか入力Bのいずれかを出力Yとして選択します。

この動作は、論理式では以下のように表現できます。

Y = (A ⋅ S) + (B ⋅ S̄)

真理値表やカルノー図を用いて表現することも可能です。

より大きなマルチプレクサも存在し、例えば8入力マルチプレクサは、8本のデータ入力と3本の選択制御入力を持ちます。選択制御入力の値に応じて、8つの入力のうちの1つが出力として選択されます。

また、小さなマルチプレクサを組み合わせて大きなマルチプレクサを構成することも可能です。例えば、2つの4入力マルチプレクサの出力を1つの2入力マルチプレクサの入力に接続することで、8入力マルチプレクサを構成できます。

マルチプレクサ機能を持つIC

7400シリーズには、マルチプレクサ機能を持つICが多数存在します。これらのICを用いることで、様々なデジタル回路を効率的に設計できます。

デマルチプレクサ

デマルチプレクサは、マルチプレクサとは逆に、一つの入力信号を複数の出力信号に振り分ける回路です。選択制御入力の値に応じて、入力信号をいずれかの出力に送ります。デマルチプレクサは、しばしば「セレクタ」と呼ばれることもあります。

例えば、8出力デマルチプレクサは、1つのデータ入力(X)と3つの選択制御入力(S4, S2, S1)、そして8つのデータ出力(A0～A7)を持ちます。選択制御入力の値に応じて、入力Xが出力A0～A7のいずれかに送られます。

デマルチプレクサの入力を常にHighに固定したものはデコーダとして機能し、選択制御入力に応じて、常にいずれか一つの出力がHighになります。

デマルチプレクサ機能を持つIC

74シリーズの汎用ロジックICには、デマルチプレクサとして機能するICも含まれています。これらのICは、デジタル回路の設計において、信号の分配や制御に広く利用されています。

アナログ回路におけるマルチプレクサ

アナログ回路では、マルチプレクサとセレクタはデータ入出力に方向性がなく、双方向に信号をやり取りできる回路として機能します。これらの回路は「アナログスイッチ」とも呼ばれ、マルチプレクサとセレクタの両方の機能を持ち合わせています。

汎用ロジックICの4000シリーズには、4016、4066、4051、4052、4053などがアナログスイッチとして存在します。これらのICは、複数の信号を切り替える際に用いられます。例えば、複数の監視カメラの映像を一つのディスプレイに切り替えて表示する際に、アナログスイッチが活用されます。