マルティヌス5世 (ローマ教皇)

マルティヌス5世：教会大分裂後のローマ教皇

マルティヌス5世（1368年-1431年）は、15世紀初頭のヨーロッパを揺るがした教会大分裂の終結後、コンスタンツ公会議において選出されたローマ教皇です。本名はオットーネ・コロンナ。ローマの名門コロンナ家の出身であり、その家柄と卓越した行政手腕は、彼を教皇の座へと導く重要な要因となりました。

教皇選出までの道のり

オットーネは、ローマ教皇ボニファティウス9世に仕え、後にインノケンティウス7世によって枢機卿に任命されます。しかし、グレゴリウス12世との対立の中で、ピサ教会会議で選出された対立教皇アレクサンデル5世とヨハネス23世を支持しました。

1414年に開催されたコンスタンツ公会議は、当時存在していた3人の教皇（グレゴリウス12世、ベネディクト13世、ヨハネス23世）を退位または廃位させ、教会大分裂の終結に大きな役割を果たしました。神聖ローマ皇帝ジギスムントの支援を受けて行われたコンクラーヴェにおいて、オットーネは23人の枢機卿と30人の代表の投票により選出され、49歳でマルティヌス5世として即位しました。そして、1418年4月にコンスタンツ公会議を閉会させました。

ローマへの帰還と都市の復興

ローマは、マルティヌス5世の即位当時、ナポリ王ラディズラーオ1世によって占領されていました。しかし、ラディズラーオ1世の死後、姉のジョヴァンナ2世が即位すると、マルティヌス5世はジョヴァンナ2世と和解し、ナポリ王戴冠式を執り行いました。その結果、安全を確保した上で、1420年9月にローマへ帰還を果たします。

メディチ家は、対立教皇ヨハネス23世を支援し、ローマ教皇庁の財務管理者を務めていましたが、マルティヌス5世は彼らを信任し、その地位を維持させました。1424年には、メディチ家当主ジョヴァンニ・ディ・ビッチにモンテ・ヴェルデ伯爵位を授与しようとしましたが、ジョヴァンニはそれを辞退したと伝えられています。

ローマは長年の混乱により荒廃していました。マルティヌス5世は、マントヴァとフィレンツェを拠点にしながらも、ローマの秩序回復に尽力し、サン・ピエトロ大聖堂やラテラノ宮殿などの修復を行いました。これらの修復費用に関連して、1420年にはイタリア全土のユダヤ人共同体による税賦が制定されました。

ヨーロッパ情勢への対応

教会大分裂の終結後も、ヨーロッパには百年戦争、フス戦争など多くの問題が残っていました。また、コンスタンツ公会議での約束として新たな公会議の招集も求められていました。

百年戦争に関しては、マルティヌス5世は和平使節を派遣するなどしましたが、決定的な成果は得られませんでした。むしろ、初期にはイングランドとその同盟国ブルゴーニュとの関係を重視し、ヘンリー・ボーフォートを枢機卿に任命するなどしました。グロスター公ハンフリーとジャクリーヌの結婚を巡る問題にも関与し、最終的にはアラスの和約締結を後押しする役割を果たしました。

フス戦争は、ボヘミア王ヴェンツェルがフス派を庇護していたため、マルティヌス5世は神聖ローマ皇帝ジギスムントと共にヴェンツェルへ圧力をかけました。ヴェンツェルの死後、ジギスムントがボヘミア王を継承しましたが、フス派の反乱は激化しました。マルティヌス5世は十字軍を組織してフス派と戦いましたが、敗北を喫し、フス戦争の解決は彼の死後へと持ち越されました。

新たな公会議の招集に関しては、パヴィア、シエナでの開催を予定しましたが、疫病や参加者の不足により実現せず、最終的にはバーゼルでの開催が決定されました。しかし、マルティヌス5世は、バーゼル公会議の開催を待たずに1431年2月20日に卒中で亡くなりました。東ローマ帝国との対話も試みましたが、成果は上がりませんでした。

人物像

教皇選出前は穏やかな性格で知られていましたが、教皇となると強硬な姿勢を見せ、公会議の教皇権制限への反対、財政改革などを推進しました。その強硬な姿勢は、周囲の枢機卿たちを恐れさせました。しかし、状況によっては柔軟な対応を取る一面もありました。対立教皇クレメンス8世の降伏を受け入れ、パルマ・デ・マヨルカ司教に任命したこともありました。

また、ユダヤ人迫害にも反対し、反ユダヤ的な説教を非難したり、ユダヤ人の子供への洗礼強要者を破門するなどしました。

マルティヌス5世は、教会大分裂後の混乱期に教皇の座につき、ローマの復興やヨーロッパ情勢の安定化に尽力しました。しかし、彼の在任中には多くの問題が残され、後の教皇たちへの大きな課題となりました。

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