マルミズムシ

マルミズムシは、カメムシ目カメムシ亜目に含まれる水生昆虫の一群で、特にマルミズムシ科（Pleidae）を構成する微小な昆虫の総称です。また、日本に生息するその代表的な一種、Paraplea japonica の標準和名としても用いられています。その体長は最大でも2ミリメートル程度と極めて小さく、水中に生息する昆虫の中でも特に目立たない存在と言えます。

この小さな虫は、水深の浅い止水域、特に水草が豊富に茂り、比較的有機物が多く含まれる（富栄養な）環境を好んで生息しています。古いため池や流れの緩やかな水路の縁などで見られることがありますが、その小ささから、注意深く探さない限り、そこに生息していることに気がつくことは少ないでしょう。マルミズムシの体は、非常に独特な形状をしています。一般的に「砲弾を縦に割ったような形」と表現されるように、頭部は幅広く、そこから胸部、腹部へと滑らかにつながり、後端に向かって次第に細まる流線型をしています。しかし、この虫の最大の特徴の一つは、体の厚み、すなわち高さが横幅よりも大きい、ずんぐりとした立体的な体型であることです。この体型は、水草の間に潜り込んだり、茎に掴まったりする生活に適応していると考えられます。

普段の彼らは、水草の茎や葉の表面にじっと静止していることがほとんどです。しかし、移動する際には、腹面を上にして水面下を泳ぎます。この「背泳ぎ」こそが、マルミズムシの最も顕著でユニークな行動様式です。推進力には、体の後方にある発達した後脚と中脚の二対を用い、これらの脚を巧みに動かして、比較的直線的に泳ぎ進みます。ただし、他の活発に泳ぎ回る水生昆虫とは異なり、マルミズムシが長時間水面下を泳ぎ続けることは稀です。少し泳いではすぐに近くの水草に掴まり、再び静止するという行動を繰り返します。この独特な移動方法と休息のパターンは、彼らの微小な体と生息環境への適応の結果と言えるでしょう。餌としては、水中の微小な生物やデトリタスなどを捕食していると考えられています。

マルミズムシ科 Pleidae は世界中に分布していますが、種類数はそれほど多くありません。日本国内からは、現在までに2種類のマルミズムシが確認されています。一つは、この項目の標準和名となっているマルミズムシ（Paraplea japonica Horvath）で、もう一つは、それよりもさらに小型のヒメマルミズムシ（Paraplea indistinguenda Matsumura）です。これら2種は、形態的な特徴や生息環境においてわずかな違いが見られますが、いずれもマルミズムシ属 Paraplea に分類されます。水生カメムシ類全体の中では、サイズ、体型、そして背泳ぎというユニークな生態から、マルミズムシ科は独立したグループとして位置づけられています。彼らの生態や分類に関する詳しい研究はまだ十分に進んでいない側面もあり、さらなる調査が待たれます。

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