マレーネ・ディートリヒ

マレーネ・ディートリヒ：魅惑の生涯

マレーネ・ディートリヒ（1901年～1992年）は、20世紀を代表するドイツ出身の女優、歌手です。その圧倒的な美貌と才能で、ヴァイマル共和国時代のドイツからハリウッドへと活躍の場を広げ、世界中を魅了しました。しかし、華麗なキャリアの裏には、複雑な生い立ちと、時代の激流に翻弄された波乱の人生がありました。

生い立ちと初期のキャリア

ベルリンに生まれたディートリヒは、警察官の父と母のもと、裕福な家庭で育ちました。しかし、幼くして父を亡くし、第一次世界大戦で継父も失うという悲劇に見舞われます。生活のために、彼女は酒場で歌いながら生計を立てなければなりませんでした。18歳でヴァイオリニストを目指し音楽学校に入学するも、怪我のために夢を断念。その後、マックス・ラインハルトの演劇学校で学び、舞台女優としてデビューを果たします。1923年には既に数々の舞台で活躍し、映画にも端役で出演。私生活では、1924年に助監督と結婚し、娘をもうけましたが、すぐに別居状態となりました。

ドイツ映画からハリウッドへ

1930年、ディートリヒは映画監督ジョセフ・フォン・スタンバーグと出会い、運命が大きく変わります。スタンバーグ監督は、ディートリヒの独特の美貌と才能を見抜き、『嘆きの天使』に抜擢。この映画での成功は、彼女を国際的なスターダムへと押し上げました。独特のまなざしとスタイルは、「100万ドルの脚」と称賛され、妖艶な歌声も人々を虜にしました。

同年、彼女はハリウッドへ渡り、ゲイリー・クーパーと共演した『モロッコ』でハリウッド・デビュー。アカデミー主演女優賞にもノミネートされ、大成功を収めます。『上海特急』では、当時既に人気女優であったグレタ・ガルボと並ぶスターとしての地位を確立しました。スタンバーグ監督とのコンビは黄金時代を築きますが、『西班牙狂想曲』の不振をきっかけに、両者の関係は解消。その後は低迷期に入ります。

ナチス政権と第二次世界大戦

アドルフ・ヒトラーはディートリヒを気に入り、ドイツへの帰国を要請しましたが、彼女はナチス政権を嫌悪し、アメリカ市民権を取得しました。そのため、ドイツでの彼女の映画の上映は禁止されてしまいます。

第二次世界大戦が始まると、ディートリヒはアメリカ軍の慰問活動に積極的に参加。ヨーロッパ各地を巡り、反ドイツの立場を鮮明にしました。この活動で、彼女は兵士たちに歌われた『リリー・マルレーン』を覚え、対独放送でも歌います。戦争中は幾度となく危険な目に遭いながらも、自身の信念を貫きました。戦後、彼女はベルリンで奇跡的に母親と再会するも、まもなく母は亡くなります。

戦後と歌手活動

戦後、若い女優の台頭により映画出演の機会は減少しますが、ディートリヒは歌手として新たな道を歩み始めます。ラスベガスでのリサイタルは大成功。1950年代以降は歌手としての活動が中心となり、アメリカやヨーロッパを舞台に活躍しました。1960年には、念願だった故郷ドイツでの公演を行い、複雑な国民感情を肌で感じることになります。1970年には大阪万博にも出演し、日本でも人気を博しました。

引退と晩年

1975年、コンサート中の負傷により引退を余儀なくされたディートリヒは、パリで静かに余生を過ごします。引退後も、彼女の周囲には謎めいた雰囲気が漂い、人々の関心を集め続けました。1989年のベルリンの壁崩壊の際には、強い喜びを表したと伝えられています。1992年、パリで亡くなりました。死後、ベルリンに埋葬され、ポツダム広場に隣接する広場には「マレーネ・ディートリヒ広場」と命名されました。

複雑な人間関係と業績

ディートリヒの生涯は、数々の男性との複雑な恋愛関係でも知られています。彼女は、ジャン・ギャバン、ユル・ブリンナー、アーネスト・ヘミングウェイなど、多くの著名人と親交がありました。また、エディット・ピアフとは親友であり、互いに支え合う関係を築きました。

ディートリヒの業績は、映画や音楽にとどまりません。彼女は、ナチスへの抵抗を貫き、第二次世界大戦中のアメリカ軍の慰問活動を通して、多くの兵士たちに勇気を与えました。彼女の生涯は、時代の激動の中でたくましく生きた一人の女性の物語であり、今もなお、人々に強い感動を与え続けています。

参考文献

Marlene Dietrich: Her Own Song (2001)
Marlene Dietrich's ABC (1962)
Nehmt nur mein Leben: Reflexionen (1979)
Marlene Dietrich: Life and Legend (1992)
* Marlene Dietrich (1992)など多数。

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