マンサフ

マンサフ：ヨルダンの国民食

マンサフは、ヨルダンとその周辺地域で親しまれる伝統的な大皿料理です。発酵乾燥ヨーグルトのソースで煮込んだ羊肉を、パンや米、ブルグルなどの上に盛り付け、アーモンドや松の実で飾り付けます。独特のスパイスであるバハーラートが、豊かな風味を添えます。

歴史と名称の由来

マンサフの起源は諸説ありますが、主な説として以下の3つが挙げられます。

1. 穀物選別説: かつては、穀物から異物を取り除く作業を「ナスフ」と呼び、マンサフの小麦も同様の工程を経ていたことから、この作業に由来するという説です。料理を提供する際に「選り分けられた、きれいな食事です」という意味で用いられたという説もあります。
2. メシャ王説: 古代モアブ王国のメシャ王が、人々に肉とヨーグルトの料理を作らせたことが起源という説です。この料理がイスラエルとの協約を破棄する行為に例えられ、「打ち壊す」を意味する言葉から「マンサフ」と呼ばれるようになったとされています。
3. 皿の名前説: マンサフを盛る大皿の名前が由来という説です。文語アラビア語では穀物用のふるいを指す言葉でしたが、地方の方言では料理を盛る大皿、そして料理そのものを指すようになりました。

調理法と文化的意義

マンサフの調理は、まずジャミードと呼ばれる発酵乾燥ヨーグルトを水で戻し、ブロードを作ることから始まります。このブロードで羊肉をじっくり煮込み、マルクークやシュラークといったパンの上に米、そして羊肉を順に重ねていきます。最後にソースをかけ、ナッツ類で飾り付ければ完成です。

マンサフはヨルダン文化において特別な意味を持ちます。結婚式や子どもの誕生、祝祭日など、重要な祝い事の席に欠かせない料理であり、おもてなしの心と寛大さを象徴する存在でもあります。伝統的には、皆で大きな皿を取り囲み、手づかみで食事をするのが習わしです。

歴史学者ユーセフ・ガワーンメは、著書『マムルーク朝ヨルダンの文化史』で、マンサフが農業と牧畜が共存するヨルダンの生活様式を反映していると指摘しています。

地方差と変種

マンサフはヨルダン各地で調理され、地域によって様々なバリエーションが存在します。カラクやサルト周辺は特にマンサフの名産地として知られています。アカバなど沿岸部では魚介類を使ったマンサフも見られます。また、乾燥ヨーグルトを使わないシャクレイーエという料理もあり、こちらは鶏肉を使うことが一般的で、ヨルダン北部で広く食されています。

UNESCO無形文化遺産

2022年には、マンサフはユネスコ無形文化遺産に登録されました。これは、マンサフがヨルダン文化における重要な役割と、その伝統を守り続けることの重要性を世界的に認められた証です。

参考文献

The Jordan Heritage Encyclopedia vol. 1-5: Rox Bin Za’id Al-Uzaizi.
Cultural history of Jordan during the Mamluk period 1250-1517: Professor Yousef Ghawanmeh.

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