マンハイム楽派

マンハイム楽派

マンハイム楽派は、18世紀後半、現在のドイツ南西部にあたるプファルツ選帝侯領の首都マンハイムにおいて、選帝侯カール4世フィリップ・テオドール（1724年-1799年）に仕えた宮廷楽団で活動した作曲家たちの総称です。この楽派は、当時のヨーロッパ音楽において革新的な動きを生み出し、特に「交響曲」というジャンルの発展に決定的な影響を与えました。

選帝侯カール・テオドールは、文化、特に音楽芸術に深い理解を示し、その宮廷楽団の充実に惜しみない資金を投じました。彼はヨーロッパ各地から最高水準の演奏家や作曲家を積極的に招き入れ、マンハイムの楽団を当時のヨーロッパで最も優れたオーケストラの一つへと育て上げました。その中心には、楽団の初代宮廷楽長を務めたヨハン・シュターミッツ（1717年－1757年）がおり、彼がこの楽派の創始者と見なされています。

マンハイムの宮廷楽団には、ヨハン・シュターミッツをはじめ、フランツ・クサヴァー・リヒター、イグナーツ・ホルツバウアー、クリスティアン・カンナビヒといった傑出した作曲家たちが集いました。また、作曲家だけでなく、フルート奏者のヨハン・バプティスト・ヴェンドリング、オーボエ奏者のヤコプ・アレクサンダー・ルブラン、チェロ奏者のインノチェンツォ・ダンツィなど、器楽の達人たちも多数在籍し、その演奏水準は高く評価されていました。楽派は、ヨハン・シュターミッツの息子であるカール・シュターミッツ（1745年－1801年）が活躍した時代に最盛期を迎えました。

マンハイム楽派の最も重要な功績は、後のウィーン古典派、特にハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンが完成させた交響曲の基礎を築いたことにあります。彼らは、それまでの急-緩-急という3楽章構成が主流だった交響曲に、メヌエットとトリオを第3楽章として加え、4楽章形式を確立しました。この形式は、古典派交響曲の標準となります。

さらに、彼らは音楽表現における新たな技法を開拓しました。特に顕著なのは、楽章の冒頭などでオーケストラの全楽器が一斉に強力なクレッシェンド（次第に強く）をかける、いわゆる「マンハイムのロケット」と呼ばれる急速な音量増大や、「マンハイムのため息」（特定の音型による感情表現）、「マンハイムの鳥」（フルートによる装飾的なパッセージ）といった独特の表現技法です。また、楽章全体の構成においては、提示部、展開部、再現部からなるソナタ形式を発展させ、形式的な安定感とドラマ性を両立させました。楽譜への精密な強弱記号の書き込みや、楽器ごとの明確な役割分担も、マンハイム楽派が追求したオーケストラの響きの質の向上に貢献しました。

後に古典派音楽を大成するヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、1777年から1778年にかけて就職活動のためにマンハイムを訪れました。この地での滞在は、彼のキャリアにおいては具体的な職を得るには至りませんでしたが、マンハイム楽派の先進的な音楽、特にそのオーケストレーションや交響曲の形式から多大な影響を受けました。例えば、彼の交響曲第31番「パリ」は、マンハイムのオーケストラが持つ充実した管楽器の編成に触発されて作曲されたと言われています。

マンハイム楽派の革新的な取り組みは、当時のヨーロッパ中に広がり、やがて訪れる古典派音楽の隆盛のための重要な土壌となりました。その音楽は、ウィーン古典派の巨匠たちへと受け継がれ、今日のオーケストラ音楽の基礎を形作る上で欠かせない一歩だったと言えるでしょう。

主要なメンバー：
ヨハン・シュターミッツ（1717年－1757年）
フランツ・クサヴァー・リヒター（1709年－1789年)
イグナーツ・ホルツバウアー（1711年－1783年）
クリスティアン・カンナビヒ（1731年－1798年)
カール・ヨーゼフ・トエスキ（1731年－1788年）
アントン・フィルツ（1733年－1760年）
イグナーツ・フレンツル (1736年－1811年)
カール・シュターミッツ（1745年－1801年) - ヨハン・シュターミッツの息子
ゲオルク・ヨーゼフ・フォーグラー (1749年－1814年)
ペーター・ヴィンター (1754年－1825年）

もう一度検索