ゲオルク・ヨーゼフ・フォーグラー
ゲオルク・ヨーゼフ・フォーグラー（1749年6月15日 - 1814年5月6日）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活躍したドイツの多才な音楽家です。作曲家、オルガニスト、音楽理論家、そして教育者として知られ、「アベ・フォーグラー」の呼び名でも広く認識されていました。
ヴュルツブルク近郊のプライヒャッハに生まれたフォーグラーは、ヴァイオリン製造に携わる父ヤレト・フォーグラーから幼少より音楽の才能を育まれました。イエズス会の学校に通いながらも、10歳を迎える頃には既にオルガンやヴァイオリンなど、様々な楽器で非凡な才能を発揮していました。1771年にはマンハイムに移り、バイエルン選帝侯カール・テオドールのためにバレエ音楽を作曲します。選帝侯の後援を得て、1774年にはイタリアへ留学。ボローニャではジョヴァンニ・マルティーニに学びますが、その教授法には満足せず、パドヴァでフランチェスコ・アントニオ・ヴァロッティに約5ヶ月間師事しました。その後、ローマへ移り、司祭に叙階されるとともに、権威あるアルカディア学会の会員となります。また、騎士号を授与され、教皇庁の書記長や随行員も務めました。
1775年にマンハイムへ戻ったフォーグラーは、カール・テオドールの宮廷教会で牧師となり、副楽長を兼任します。この時期、彼は最初の音楽学校を開設しました。既存の教育法とは異なる独自の原理に基づいた彼の指導は生徒たちから支持を得た一方で、多くの反発も招きました。彼はハープシコードのための新たな運指法、改良されたオルガン設計、そしてヴァロッティの理論を発展させた新しい音楽理論を提唱します。モーツァルトは彼の運指法を「悲劇的」と評するなど批判的で、モーツァルトによって広められた偏見は当時のフォーグラーの評判に少なからず影響を与えたと言われています。オルガン設計における改良は、機構の簡略化や、リードストップの代わりにフリー・リードを導入し、大音量の混合音に替えて同音程のストップを用いるもので、これは後に広く普及しました。彼の理論はヴァロッティの原理に基づくと説明されましたが、実際には経験に基づく側面も大きいものでした。しかし、その根底には確固たる真実があり、フォーグラーが音楽理論の発展に重要な影響を与えたことは明らかです。また、この学校からは同時代の著名な音楽家たちが数多く輩出されました。
1778年、カール・テオドールの宮廷がミュンヘンへ移転します。フォーグラーも1780年にこれに続きますが、自身が作曲した劇作品への評判に不満を感じ、すぐに宮廷の職を辞しました。その後パリへ渡りますが、そこではジャン＝フィリップ・ラモー以来の彼のシステムに対する強い抵抗が残っていました。しかし、サン・シュルピス教会でのオルガン演奏会は大きな注目を集め、王妃マリー・アントワネットの依頼によるオペラ「Le Patriotisme」はヴェルサイユ宮殿で初演されました。フォーグラーはその後、ヨーロッパ各地はもとより、スペイン、ギリシャ、さらにはアルメニアやアジア、アフリカの一部、そして民謡収集のためグリーンランドにまで及ぶ広範な演奏旅行に出かけました。1786年にはスウェーデン王グスタフ3世に招かれてストックホルムの宮廷楽長に就任し、そこで第2の音楽学校を設立しました。彼は自身が考案した移動可能なオルガン「オーケストリオン」を演奏して大きな名声を得ます。1790年にはこの楽器をロンドンに持ち込み、パンテオンで演奏して絶賛されました。また、ロンドンでは自身の原理に基づいたオルガンを建造しています。特に彼のペダル演奏は高く評価されました。1788年にサンクトペテルブルクを訪れた際には、オルガンのパイプに初めてフリー・リードを採用したことで知られるコペンハーゲンのオルガン製作者キルスニックに出会っています。1790年以降、フォーグラーは自身が演奏する多くのオルガンにフリー・リードの音栓を追加する改造を積極的に行いました。ロッテルダムのオルガンは、1782年から1790年にキルスニックに雇われていたラックヴィッツによって最初に改造されたものの一つで、その後約30台のオルガンが同様の改良を受けました。フォーグラーの作品で特に知られるものの一つに、ウェストミンスター寺院のヘンデル記念祭訪問後に作曲された、ヘンデルの「ハレルヤ」コーラスを主題とするフーガがあります。これは、クネヒトが「オルガンによる音楽絵画」と呼んだように、嵐を描写する要素を含んでいます。
ロンドンを離れたフォーグラーは、ロッテルダムを含むライン川流域の主要都市を巡りました。エスリンゲン・アム・ネッカーでは、王のために保存されていた「名誉のワイン」を贈られ、フランクフルトでは神聖ローマ皇帝レオポルト2世の戴冠式に列席しました。その後ストックホルムに長期滞在しましたが、その旅への情熱は衰えず、スウェーデンを後にして再びドイツで活動を展開し、宗教音楽と劇音楽の両分野で高く評価されるようになりました。1800年にはベルリン、1804年にはウィーン、1806年にはミュンヘンに滞在した記録があります。1807年、フランクフルトでヘッセン大公ルートヴィヒ1世に招かれ、ダルムシュタットの宮廷楽長職、枢密院勲章、十分な俸給、住居、大公の食卓への招待など、様々な特権を提示されました。これを受諾したフォーグラーは、この地でついに旅の生活に終止符を打ちます。
ダルムシュタットにおいて、フォーグラーは3番目で最も有名な音楽学校を開校しました。この学校からはフランツ・シューベルトやカール・マリア・フォン・ウェーバー、ジャコモ・マイアベーアといった輝かしい才能が巣立ち、彼らは晩年の師に深い尊敬と愛情を抱いていました。フォーグラーの最期の公的な活動の一つに、1810年にフランクフルトでウェーバーのオペラ「シルヴァーナ」の初演を観劇するための旅行があります。彼は生涯を通じて精力的に活動を続け、ダルムシュタットで突然脳卒中に倒れ、その生涯を終えました。フォーグラーは、演奏家としては華やかで技術に優れ、教師としては独特ながらも優れた人物であったと言えるでしょう。
フォーグラーは多岐にわたるジャンルで作曲しました。オペラにはジングシュピール「Erwin und Elmire」、オペラ・セリア「Castor e Polluce」などがあり、舞台音楽ではシェイクスピアの「ハムレット」やラシーヌの「アタリー」への付随音楽も手掛けています。宗教音楽では、複数のミサ曲（「ミサ・ソレムニス」「レクイエム」など）、詩篇、モテット、聖歌など多くの作品を残しました。器楽曲では、フォルテピアノのためのソナタや変奏曲、オルガン前奏曲、室内楽曲、そして交響曲（「ラ・スカラ」など）があります。
近年、彼の作品は再評価され、録音もリリースされています。シャンドスからは交響曲やバレエ組曲などが、Oehmsレーベルからは「大レクイエム」などの録音が出されています。
生涯
ヴュルツブルク近郊のプライヒャッハに生まれたフォーグラーは、ヴァイオリン製造に携わる父ヤレト・フォーグラーから幼少より音楽の才能を育まれました。イエズス会の学校に通いながらも、10歳を迎える頃には既にオルガンやヴァイオリンなど、様々な楽器で非凡な才能を発揮していました。1771年にはマンハイムに移り、バイエルン選帝侯カール・テオドールのためにバレエ音楽を作曲します。選帝侯の後援を得て、1774年にはイタリアへ留学。ボローニャではジョヴァンニ・マルティーニに学びますが、その教授法には満足せず、パドヴァでフランチェスコ・アントニオ・ヴァロッティに約5ヶ月間師事しました。その後、ローマへ移り、司祭に叙階されるとともに、権威あるアルカディア学会の会員となります。また、騎士号を授与され、教皇庁の書記長や随行員も務めました。
1775年にマンハイムへ戻ったフォーグラーは、カール・テオドールの宮廷教会で牧師となり、副楽長を兼任します。この時期、彼は最初の音楽学校を開設しました。既存の教育法とは異なる独自の原理に基づいた彼の指導は生徒たちから支持を得た一方で、多くの反発も招きました。彼はハープシコードのための新たな運指法、改良されたオルガン設計、そしてヴァロッティの理論を発展させた新しい音楽理論を提唱します。モーツァルトは彼の運指法を「悲劇的」と評するなど批判的で、モーツァルトによって広められた偏見は当時のフォーグラーの評判に少なからず影響を与えたと言われています。オルガン設計における改良は、機構の簡略化や、リードストップの代わりにフリー・リードを導入し、大音量の混合音に替えて同音程のストップを用いるもので、これは後に広く普及しました。彼の理論はヴァロッティの原理に基づくと説明されましたが、実際には経験に基づく側面も大きいものでした。しかし、その根底には確固たる真実があり、フォーグラーが音楽理論の発展に重要な影響を与えたことは明らかです。また、この学校からは同時代の著名な音楽家たちが数多く輩出されました。
1778年、カール・テオドールの宮廷がミュンヘンへ移転します。フォーグラーも1780年にこれに続きますが、自身が作曲した劇作品への評判に不満を感じ、すぐに宮廷の職を辞しました。その後パリへ渡りますが、そこではジャン＝フィリップ・ラモー以来の彼のシステムに対する強い抵抗が残っていました。しかし、サン・シュルピス教会でのオルガン演奏会は大きな注目を集め、王妃マリー・アントワネットの依頼によるオペラ「Le Patriotisme」はヴェルサイユ宮殿で初演されました。フォーグラーはその後、ヨーロッパ各地はもとより、スペイン、ギリシャ、さらにはアルメニアやアジア、アフリカの一部、そして民謡収集のためグリーンランドにまで及ぶ広範な演奏旅行に出かけました。1786年にはスウェーデン王グスタフ3世に招かれてストックホルムの宮廷楽長に就任し、そこで第2の音楽学校を設立しました。彼は自身が考案した移動可能なオルガン「オーケストリオン」を演奏して大きな名声を得ます。1790年にはこの楽器をロンドンに持ち込み、パンテオンで演奏して絶賛されました。また、ロンドンでは自身の原理に基づいたオルガンを建造しています。特に彼のペダル演奏は高く評価されました。1788年にサンクトペテルブルクを訪れた際には、オルガンのパイプに初めてフリー・リードを採用したことで知られるコペンハーゲンのオルガン製作者キルスニックに出会っています。1790年以降、フォーグラーは自身が演奏する多くのオルガンにフリー・リードの音栓を追加する改造を積極的に行いました。ロッテルダムのオルガンは、1782年から1790年にキルスニックに雇われていたラックヴィッツによって最初に改造されたものの一つで、その後約30台のオルガンが同様の改良を受けました。フォーグラーの作品で特に知られるものの一つに、ウェストミンスター寺院のヘンデル記念祭訪問後に作曲された、ヘンデルの「ハレルヤ」コーラスを主題とするフーガがあります。これは、クネヒトが「オルガンによる音楽絵画」と呼んだように、嵐を描写する要素を含んでいます。
ロンドンを離れたフォーグラーは、ロッテルダムを含むライン川流域の主要都市を巡りました。エスリンゲン・アム・ネッカーでは、王のために保存されていた「名誉のワイン」を贈られ、フランクフルトでは神聖ローマ皇帝レオポルト2世の戴冠式に列席しました。その後ストックホルムに長期滞在しましたが、その旅への情熱は衰えず、スウェーデンを後にして再びドイツで活動を展開し、宗教音楽と劇音楽の両分野で高く評価されるようになりました。1800年にはベルリン、1804年にはウィーン、1806年にはミュンヘンに滞在した記録があります。1807年、フランクフルトでヘッセン大公ルートヴィヒ1世に招かれ、ダルムシュタットの宮廷楽長職、枢密院勲章、十分な俸給、住居、大公の食卓への招待など、様々な特権を提示されました。これを受諾したフォーグラーは、この地でついに旅の生活に終止符を打ちます。
ダルムシュタットにおいて、フォーグラーは3番目で最も有名な音楽学校を開校しました。この学校からはフランツ・シューベルトやカール・マリア・フォン・ウェーバー、ジャコモ・マイアベーアといった輝かしい才能が巣立ち、彼らは晩年の師に深い尊敬と愛情を抱いていました。フォーグラーの最期の公的な活動の一つに、1810年にフランクフルトでウェーバーのオペラ「シルヴァーナ」の初演を観劇するための旅行があります。彼は生涯を通じて精力的に活動を続け、ダルムシュタットで突然脳卒中に倒れ、その生涯を終えました。フォーグラーは、演奏家としては華やかで技術に優れ、教師としては独特ながらも優れた人物であったと言えるでしょう。
作品
フォーグラーは多岐にわたるジャンルで作曲しました。オペラにはジングシュピール「Erwin und Elmire」、オペラ・セリア「Castor e Polluce」などがあり、舞台音楽ではシェイクスピアの「ハムレット」やラシーヌの「アタリー」への付随音楽も手掛けています。宗教音楽では、複数のミサ曲（「ミサ・ソレムニス」「レクイエム」など）、詩篇、モテット、聖歌など多くの作品を残しました。器楽曲では、フォルテピアノのためのソナタや変奏曲、オルガン前奏曲、室内楽曲、そして交響曲（「ラ・スカラ」など）があります。
録音
近年、彼の作品は再評価され、録音もリリースされています。シャンドスからは交響曲やバレエ組曲などが、Oehmsレーベルからは「大レクイエム」などの録音が出されています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。