マーキュリー・アトラス9号

マーキュリー・アトラス9号：最後の有人宇宙飛行と数々のトラブル

マーキュリー・アトラス9号は、アメリカ合衆国がマーキュリー計画において打ち上げた最後の有人宇宙船であり、コールサインは「フェイス7 (Faith 7)」でした。1963年5月15日にケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。

ミッションの背景

前回のマーキュリー・アトラス8号（シグマ7）の飛行がほぼ完璧な成功を収めたため、NASAは当初、計画を継続するよりも、次の段階である2人乗り宇宙船のジェミニ計画へ移行することを検討していました。しかし、有人飛行センター（現在のジョンソン宇宙センター）は、ソ連のヴォストークが既に1日以上の飛行を達成していることから、マーキュリー計画でも同レベルの飛行を実現すべきだと主張しました。

これを受けてNASAは1962年9月、マクドネル・エアクラフト社にマーキュリー宇宙船の改造を依頼し、1日以上の飛行に耐え得るようにしました。具体的には、潜望鏡や余分な推進装置を削減し、バッテリーと酸素タンクを追加するなどの変更が加えられました。

1962年11月には、ゴードン・クーパーがパイロットに、アラン・シェパードがバックアップに選ばれました。マーキュリー・アトラス9号は、北緯32.5度から南緯32.5度までの広範囲を飛行するため、28隻の船舶、171機の航空機、18,000人もの技術者による大規模なサポート体制が敷かれました。当初5月14日に予定されていた打ち上げは、バミューダ海域のレーダー故障により15日に延期されました。

飛行中のトラブル

打ち上げ後、9周目の地球軌道飛行中に早くもトラブルが発生しました。宇宙船の重力計が、宇宙船の減速を示唆する0.05g (0.5 m/s²) を指示しましたが、これは計器の故障であることが判明しました。さらに、20周目には高度計が故障し、21周目には250ボルトのメインインバーターがショートし、自動姿勢制御装置が停止するという事態に見舞われました。

21周目に日本の九州付近を航行中の歩哨船 (Coastal Sentry Quebec) に乗っていたジョン・グレンが、無線で逆推進操作用の改訂版チェックリストの準備を手伝いました。システムの故障により手動操作が大幅に増加したため、チェックリストの改訂が必要になったのです。当時、通信衛星がなく無線中継ができなかったため、21周目で宇宙船との通信が可能だったのはハワイとザンジバルのみでしたが、通信状態は良好でした。

船内と宇宙服の二酸化炭素濃度が上昇するという問題も発生し、ザンジバル通過中の交信でクーパーは「問題が雪だるま式に膨れ上がっている」と報告しました。しかし、これらの問題にもかかわらず、クーパーは終始冷静に対応しました。21周目の最後にクーパーは再びグレンと交信し、チェックリストの実行完了を報告。グレンが逆推進ロケット点火の10秒カウントダウンを行い、クーパーは34度の機首下げ姿勢を取りながら逆推進ロケットを点火しました。

帰還とその後

逆噴射から15分後、宇宙船は第一回収船 (USS Kearsarge) から6kmの地点に着水しました。数々の問題があったにもかかわらず、当時としては最も正確に予定地点へ着水することができました。

マーキュリー・アトラス9号でのトラブルが頻発したため、マーキュリー計画の飛行をもう一度行うかどうかが検討されました。アラン・シェパードによるマーキュリー・アトラス10号が1963年10月に打ち上げられ、3日間で地球を48周する予定でしたが、NASAはジェミニ計画への移行を決定したため、打ち上げられることはありませんでした。

こうして、マーキュリー計画は幕を閉じることになったのです。

現在、「フェイス7」はテキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターに展示されています。

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