マーシャル・ソラール

マーシャル・ソラール（Martial Solal、1927年 8月23日 - 2024年 12月12日）は、フランスを代表するジャズ・ピアニスト、そして作曲家でした。その長いキャリアを通じて、独創的かつ洗練された音楽スタイルで世界中のジャズファンを魅了し続けました。

生涯

北アフリカ、アルジェでフランス人の両親のもとに生まれたソラールは、幼い頃から音楽に囲まれた環境で育ちました。オペラ歌手であった母親の勧めにより、クラリネット、サクソフォーン、そしてピアノといった楽器に親しみました。学校でクラシック音楽の基礎を学んだ後も、ラジオから流れる様々な音楽を耳でコピーするなど、独学によって才能を磨き続けました。

彼の幼少期は第二次世界大戦の混乱期と重なり、1942年にはユダヤ系の血を引く父親の影響で学校からの退学を余儀なくされるという辛い経験もしています。当時フランス領であったアルジェリアでも、フランス本国のヴィシー政権がナチス・ドイツの政策に追随していたためです。しかし、そのような困難な状況下でも音楽への情熱は失われず、わずか15歳で、アルジェリア駐留の米国陸軍兵士たちの前で演奏する機会も得ています。

1950年にパリへ拠点を移してからは、急速にその頭角を現します。黎明期のヨーロッパジャズを代表するジャンゴ・ラインハルトをはじめ、シドニー・ベシェやドン・バイアスといった渡欧中のアメリカ人トップミュージシャンたちとの共演を通じて、経験を積みました。1953年には自身のリーダーとしてレコーディング活動を開始し、1950年代後半には自己のカルテットを率いるようになります。時には大規模なビッグバンドの指揮も執り、そのアレンジ能力を発揮しました。

音楽活動の幅はジャズ演奏にとどまらず、映画音楽の世界にも進出しました。生涯で20本以上の作品にスコアを提供し、その作曲家としての才能も高く評価されています。中でも特筆すべきは、ヌーヴェルヴァーグを代表する監督ジャン＝リュック・ゴダールの記念すべき長編デビュー作『勝手にしやがれ』（1960年公開）の音楽を担当したことです。この作品の印象的なスコアは、映画とともに世界中の人々に記憶されています。

国際的な認知度も高まり、1963年にはアメリカ、ロード・アイランド州で開催された名門ニューポート・ジャズ・フェスティバルに招かれ、出演を果たしました。この出演に合わせてリリースされたアルバム『アット・ニューポート '63』は、実際にはライブではなくスタジオ録音でしたが、この時期の彼のレギュラー・トリオ、ベーシストのガイ・ペデルセンとドラマーのダニエル・ユメールとの緊密なアンサンブルを聴くことができます。

以降も国際的な活動は続き、1968年からはサックス奏者のリー・コニッツと頻繁に共演し、ヨーロッパおよびアメリカ各地でレコーディングを行いました。コニッツとのデュオやグループでの演奏は、彼のキャリアにおいて重要な一章を占めています。

晩年に至るまでその音楽への探求心は衰えることがなく、2011年に『The Gruppen Review』誌が掲載した12ページに及ぶインタビューでは、自身を「永遠のジャズの研究者」と称し、音楽活動に対する深い洞察を語っています。2024年 12月12日午後、フランス、イヴリーヌ県ベルサイユ市内の病院にて安らかに息を引き取りました。享年97歳でした。

音楽スタイル

彼のジャズ・ピアノ演奏は、評論家や聴衆から一貫して「鮮麗でユニーク、そして理知的」と評されました。ソラール自身は、超絶技巧について「どんなに難しいパッセージであっても、聴く側には容易く聴こえなければならない。弾き手が技術的な困難を抱えているように思われたら、それは意味がない。それが真のヴィルトゥオーゾ演奏だ」と語っており、その卓越した技術をひけらかすのではなく、音楽表現のために自然に溶け込ませる哲学を持っていました。予測不能なコード進行、瞬時のインプロヴィゼーション、そして深い知性に裏打ちされたアプローチは、彼をジャズ・ピアノ史における孤高の存在たらしめています。

主なリーダーアルバム（一部）

『マーシャル・ソラール・トリオ』（1954年）
『アット・ニューポート '63』（1963年）
『インプレッシブ・ローマ』（リー・コニッツと、1968年）
『ソロ・ピアノの芸術』（1975年）
『デュプリシティ』（リー・コニッツと、1977年）
『ハッピー・リユニオン』（ステファン・グラッペリと、1980年）
『プレイズ・アンドレ・オデール』（1984年）
『ジャスト・フレンズ』（1998年）
『イン&アウト』（ジョニー・グリフィンと、2000年）
『ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』（2009年）

多岐にわたる活動を通じて、マーシャル・ソラールはヨーロッパジャズの発展に大きく貢献し、後進のミュージシャンにも多大な影響を与え続けました。

もう一度検索