マーチ・792

マーチ・792: F2選手権の革新マシン

概要

1979年度のF2選手権に向けてイギリスのマーチ・エンジニアリングが開発したマーチ・792は、特にそのボディデザインが注目されるレーシングカーです。このマシンは、グランドエフェクトを初めて採用したF2マシンであり、サイドポンツーンに配置されたウイングによるベンチュリ効果によって高いダウンフォースを実現しました。

前年度チャンピオンマシンであるマーチ・782に勝る性能を目指して、マーチは792の設計に取り組みました。特に、モノコックシャーシの細身なデザインと、新しいサスペンション方式により、空気の流れを最適化し、競争力のあるマシンを実現しました。

シャーシ設計

マーチ・792のシャーシは、前部がアルミ製モノコックフレーム、後部が鋼管スペースフレームから構成されています。モノコック構造はバスタブ形状に設計されており、ドライバーを保護しながらフロントサスペンションを支えています。特にこのフレームは、空力性能を最大限に引き出すことを目的としており、サイドウイング幅を広く取れるよう工夫されています。

シャーシの設計には新たな試みとして、アルミハニカム材が用いられ、剛性を高めつつ軽量化を図りました。しかし、シーズン中にはこの剛性不足が顕在化し、さまざまな修正が加えられることとなります。

フロントカウルとサイドポンツーン

フロントカウルは、前年度のスポーツカーノーズから変更され、横方向に小さなウイングを備えたウイングノーズへと進化しました。この設計は、空気の流入を最大化し、より多くのダウンフォースを得ることを狙っています。サイドポンツーンもウエッジ型に成形され、サイドウイングへの空気の流れを促進させるための設計が施されています。

さらに、サイドポンツーンの外部には上下動が可能なサイドスカートが装備され、このスカートが地面に接触することで空気流の乱れを防ぎ、より効率的な空気の流れを実現しています。すべての設計は、グランドエフェクトを最大限に活用するためのものでした。

サスペンションとエンジン

サスペンションは、4輪全てにダブルウイッシュボーン方式を採用し、インボード設計によって空気の流れを妨げないように工夫されています。特にフロントサスペンションは強度不足が指摘されたため、途中で補強が施されるなど、シーズンを通して改良が重ねられました。

エンジンは、2,000ccの直列4気筒エンジン、BMW・M12またはハート・420Sを搭載しており、規定に沿ったパフォーマンスを提供しました。トランスミッションは、ヒューランド製の5速FT200が選ばれ、性能の向上が図られています。

レース戦歴

日本の全日本F2選手権では、792は当初苦戦しましたが、徐々にその性能を発揮するようになり、チャンピオンマシンへと成長しました。この年のチャンピオン松本恵二は、開幕戦からマーチ・782で参加し、後に792へと移行し勝利を重ねました。

ヨーロッパF2選手権でも、792は少しずつ成果を上げ、ケケ・ロズベルグによる初勝利を果たしましたが、他のライバルマシンに阻まれることもあり、一貫した勝利は難しい面もありました。しかし最終的にマルク・スレールが792でハンドリングを活かしチャンピオンを獲得しました。

792の進化と影響

マーチ・792は、1979年のF2における重要な転換点となったマシンであり、その革新的なデザイン思想は後の洗練されたレーシングカーの開発へとつながりました。特に、グランドエフェクト技術の導入は、他のカテゴリーにも影響を与え、後のシーズンでの競争力を維持するための重要な基盤となったのです。

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