マーテル (ミサイル)

マーテル (MARTEL)

「マーテル」（MARTEL）は、フランスのマトラ社とイギリスのホーカー・シドレー・ダイナミクス（HSD）が協力して開発した空対地ミサイルです。その名称はMissile Anti-Radar and TELevision（対レーダーおよびテレビミサイル）の頭文字に由来しており、ミサイルが持つ二つの主要な誘導方式を示唆しています。

設計

マーテルは、異なる誘導方法を持つ二つのタイプが同時に開発されたファミリーとして構成されています。一つ目のAJ.168はパッシブ・レーダーホーミング（PRH）誘導式の対レーダーミサイルで、敵のレーダー波を捉えて追尾し、発射後に自律追尾する「ファイア・アンド・フォーゲット」能力を持ちます。AJ.168はマトラ社で製造され、誘導装置であるAD-37はエレクトロニーク・マルセル・ダッソー社製でした。

二つ目のAS.37は画像（TV）誘導方式を採用しています。ミサイル先端のテレビカメラが捉えた映像を利用して目標を誘導しますが、必要に応じて発射母機からの指令誘導を受ける場合がありました。目標命中率向上と母機安全確保のため、発射前に広範な飛行ルートを設定可能でした。AS.37はホーカー・シドレー・ダイナミクス社製で、画像・指令誘導装置はマルコーニ社製です。

両タイプともに推進には固体燃料ロケットモーターが使われました。ブースターはホチキス-ブラーント/SNPE社製のバジル（約2.4秒燃焼）、サステナーはアエロスパシアル/SNPE社製のカサンドラ（約22.2秒燃焼）を搭載していました。

開発と運用史

マーテルの開発は順調に進みました。モックアップを用いた初期試験が1964年夏に始まり、1965年から1966年にかけてAJ.168とAS.37両方の試作機が完成。その後の試射成功を経て1968年に開発完了が宣言されました。1969年からの実用試験を経て、1972年よりイギリス空軍およびフランス空軍で正式な装備として配備が開始されました。

特筆すべき点として、1960年代後半、イギリス海軍が計画中止となった新型空母CVA-01級の代替として、PRH誘導型のAJ.168マーテルを潜水艦に搭載する可能性が検討されましたが、これは実現しませんでした。

マーテルが運用されていた期間中に、いくつかの後継ミサイルや派生型が登場しました。フランスではAJ.168の後継として、速度向上とPRH改良を図ったARMAT（AR Anti-Radar MATra）が開発・配備されましたが、1990年代後半時点でも少数のマーテルは運用されていたとされます。また、マトラ社とイタリアのオート・メラーラ社は、マーテルを基にした艦対艦ミサイル「オトマート」を共同開発。イギリスのBAeダイナミクス社もマーテルから発展した空対艦ミサイル「シーイーグル」を開発しています。アエロスパシアル社のエグゾセの固体燃料ロケットモーターにも、マーテルのものとの技術的な共通性が指摘されることがあります。

採用国

マーテルは以下の国々で運用されました。

エジプト
フランス
インド
イラク
* イギリス

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