マーディア十字軍

マーディア十字軍：最後の十字軍の光と影

1390年、フランス王国とジェノヴァ共和国の連合軍は、チュニジアのハフス朝支配下の都市マーディアを標的とした十字軍を敢行しました。これは「マーディア十字軍」または「バルバリア十字軍」として知られています。フロワサールの年代記などでは、この戦いを最後の十字軍と評しています。

背景：百年戦争の狭間の騎士道

百年戦争の一時休戦期、フランスの騎士たちは武勲を立てる機会を求めていました。そこにジェノヴァからの使節が、フランス王シャルル6世に十字軍を提案します。当時、北アフリカ沿岸ではイスラム教徒のバルバリア海賊が猛威を振るい、海洋国家ジェノヴァは大きな被害を受けていました。その海賊の拠点となっていたのが、バルバリア海岸の都市マーディアだったのです。

ジェノヴァは既に軍船、物資、1万2000人の弓兵、8000人の歩兵を準備しており、フランスの騎士たちの参加を待っていました。ジェノヴァ元首アントニオット・アドルノはこの遠征を十字軍と位置づけ、参加者には名誉、借金の返済猶予、訴訟免除、そして教皇からの贖宥が与えられることになりました。フランスの騎士に加えて一部のイングランドの騎士も参加し、ブルボン公ルイ2世に率いられた騎士団は総勢1500人に膨れ上がりました。

マーディア包囲戦：思惑と誤算

十字軍の総勢は、騎士と歩兵合わせて5000人、船乗り1000人と推定されています。当時の教皇庁は分裂状態にありましたが、十字軍にはローマ教皇ボニファティウス9世とアヴィニョン教皇クレメンス7世の両陣営から聖職者が派遣され、出発する十字軍を祝福しました。60隻の軍船からなる艦隊は1390年7月1日にジェノヴァを出発し、同月末にマーディア付近に抵抗を受けることなく上陸に成功しました。

その後2ヶ月をかけて、十字軍は陣営を構築し、マーディアを包囲しました。しかし、十分な攻城兵器を持参していなかったため、城壁を突破することができませんでした。その間に、スルタンのアブールアッバース・アフマド2世率いるハフス朝軍が到着します。その兵力は4万に達したとも伝えられています。ハフス朝軍には、ベジャイアやトレムセンの王たちも参加していました。彼らは十字軍との正面衝突を避けながら、ゲリラ的な襲撃を繰り返しました。

十字軍側は自陣の周囲に防御壁を築かざるを得ませんでした。ベルベル人の王から派遣された使節団は、十字軍に対し「我々を苦しめているのはジェノヴァ人だけなのに、なぜフランス人が攻撃してくるのか」と問い詰めました。十字軍側が使節を「イエス・キリストを磔にした不信心者」と非難すると、使節は「それはユダヤ人がやったことであって、我々ではない」と嘲笑い、交渉は決裂しました。

十字軍はハフス朝の救援軍との戦闘で多数の敵を殺害しましたが、徐々に疲弊し、撤退を余儀なくされました。包囲戦は膠着状態に陥り、補給も滞り始めたためです。最後の強襲が失敗に終わると、十字軍も和平交渉に応じざるを得ませんでした。一方、ベルベル人側も重装備のヨーロッパ人との戦いで勝利することが難しいと認識しており、両陣営は敵対関係の解消を望んでいました。

包囲戦の終結とその後

最終的に、ジェノヴァとハフス朝の間で和平条約が締結され、10年間の休戦と、マーディアからジェノヴァとルイ2世への15年間の貢納が定められました。また、バルバリア海賊の活動も抑制されることになりました。10月中旬、十字軍はジェノヴァに帰還しました。この遠征での死亡者は騎士274人、全軍の約2割に達しました。

戦後、両陣営はそれぞれの勝利を祝いました。ベルベル人は侵略者を撃退し、ジェノヴァは海賊の脅威を軽減できたからです。フランスの騎士たちも目に見える成果は得られなかったものの、十字軍に参加したこと自体が名誉となりました。

しかし、ヨーロッパ人はこの「宗教的な騎士道冒険」から重要な教訓を得ることを怠りました。不十分な準備、攻城兵器の不足、敵の過小評価、内部抗争といった問題は、6年後のニコポリス十字軍に引き継がれ、壊滅的な敗北を招くことになります。マーディア十字軍は、中世における十字軍運動の終焉を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

著名な参加者

ブルボン公ルイ2世
ウー伯フィリップ・ダルトワ
ジャン・ド・ヴィーヌ
アンゲラン7世・ド・クシー
ヌヴェール伯ジャン1世
ジョン・ボーフォート
ジェフリー・ブシコー
ジャン・ダルクール7世
ヘンリー・スクループ
ジャン・ド・ベタンクール

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