ハフス朝

ハフス朝：北アフリカのベルベル人王朝

ハフス朝（1229年 - 1574年）は、現在のチュニジアを中心とするイフリーキヤ地方を支配したベルベル人のイスラム王朝です。その歴史は、ムワッヒド朝からの独立、地中海交易による繁栄、そしてオスマン帝国による滅亡という、波瀾に満ちたものでした。

成立

13世紀初頭、ムワッヒド朝のイフリーキヤ総督であったアブー・ザカリーヤーは、ムワッヒド朝がキリスト教徒の傭兵に頼る状況を批判し、イスラム復興運動の精神を守るという大義名分のもと、1229年にアミールの称号を名乗り独立を果たしました。これがハフス朝の始まりです。

発展

アブー・ザカリーヤーは、ムワッヒド運動の正統性を主張することで勢力を拡大し、アルジェリアにまで領土を広げました。ザイヤーン朝やマリーン朝、グラナダのナスル朝もハフス朝の宗主権を認めるようになります。ハフス朝の統治下では、マーリク派のイスラム法学と聖者崇拝が発展し、首都チュニスは北アフリカにおける学問と文化の中心地として繁栄しました。

また、プロヴァンスやカタルーニャ、イタリアの諸都市から多くの商人がチュニスを訪れ、地中海交易が活発に行われました。1239年には、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世に貢物を納めることで、海上交易の権利とシチリアからの小麦輸入の自由を得ています。

ハフス朝は、ムワッヒド朝と同様にアッバース朝カリフからの認証を求めず、アブー＝アブドゥッラー・ムハンマド・アル＝ムスタンスィルは自らカリフを名乗りました。アッバース朝がモンゴル帝国によって滅ぼされた後、メッカのシャリーフやエジプトのマムルーク朝からもカリフ位を承認され、その権威を高めました。しかし、マムルーク朝がカイロにアッバース朝のカリフを擁立すると、両者の関係は一時的に悪化しました。一方で、ハフス朝は十字軍に対しては協力的な姿勢を保ち、1270年にはルイ9世率いる第8回十字軍を撃退しています。

衰退

アル＝ムスタンスィルの死後、ハフス朝は内紛によって一時的に弱体化しますが、アブー・アッバース・アフマド2世の時代に旧領を再統一し、王朝の権威を回復します。彼は土地の払下げを廃止し、反抗勢力を抑え込みました。その後継者であるアブー＝ファーリスは、内紛時に分立した小王国を再併合し、ハフス朝の再統一を完成させました。彼はザイヤーン朝への支配権を回復し、モロッコやアンダルシアにも影響力を及ぼしました。しかし、15世紀に入ると、分裂や内乱、マリーン朝やキリスト教勢力の侵攻に悩まされ、次第に政治的な安定を失っていきました。

15世紀のハフス朝は、ブルジー・マムルーク朝とは友好関係を維持し、贈り物や儀礼の交換を行っていました。ハフス朝はアラビア馬の産地として知られており、マムルーク朝からの織物や香料と引き換えに馬が贈られるなど、交易も行われていました。

滅亡

16世紀に入ると、地方勢力の分立が進み、1534年にはバルバロス・ハイレッディンの攻撃によってチュニスを一時的に占領されます。翌年、神聖ローマ皇帝カール5世の支援を受け、スルターンは復位しますが、ハフス朝はアブスブルゴ朝スペインの保護国となります。最終的に、1574年にオスマン帝国によってチュニスを攻略され、ハフス朝は滅亡しました。

ハフス朝は、北アフリカの歴史において重要な役割を果たした王朝であり、その文化的な遺産は今日にも受け継がれています。

もう一度検索