ミケーレ・シンドーナ

ミケーレ・シンドーナ：暗躍した銀行家の生涯

ミケーレ・シンドーナ（Michele Sindona, 1920年5月8日 - 1986年3月22日）は、イタリアの弁護士であり、後に銀行家として名を馳せました。しかしその実態は、マフィアと深く結びつき、マネーロンダリングや金融犯罪を重ね、最終的には謎の死を遂げた、波乱に満ちた人物です。

生い立ちと初期のキャリア

シンドーナは、シチリアの貧しい家庭に生まれました。しかし、努力の末にメッシーナ大学で法学を修め、弁護士資格を取得します。その後、地元裁判所勤務を経て、企業弁護士として活動を始めました。

マフィアとの関わり

第二次世界大戦中、シンドーナはアメリカのマフィア、ラッキー・ルチアーノと知り合います。彼は、連合国軍のイタリア上陸を支援したルチアーノの活動を手伝い、物資の横流しに協力しました。戦後、シンドーナはミラノに移り、マフィアの資金洗浄に関与するようになります。また、後のローマ教皇パウロ6世となるジョバンニ・バッティスタ・モンティニ大司教との関係を築きました。さらに、ルチアーノの依頼でアメリカに渡り、アメリカのマフィアや金融機関とのコネクションを深めました。

イタリア帰国後、シンドーナはマフィアの事業顧問となり、ヘロイン密輸で得た資金のマネーロンダリングを始めます。彼は、自身の銀行を通じて、五大ファミリーの資金洗浄も担当するようになり、マフィアとの結びつきを深めていきました。

ロッジP2、バチカン、CIAとの関係

1960年代後半、シンドーナはネオ・ファシストの秘密結社「ロッジP2」に入会し、そのメンバーを通じて、バチカン銀行の主力取引銀行であったアンブロシアーノ銀行の頭取ロベルト・カルヴィと知り合います。当時のバチカン銀行総裁ポール・マルチンクス大司教と親しくなり、バチカン銀行の財務顧問にも就任しました。さらに、アメリカの銀行家デヴィッド・M・ケネディも、シンドーナの銀行の株主となり、その影響力を増していきます。

シンドーナは「リラの守護神」と称されるほど、イタリアの金融界で重要な地位を占めました。しかし、その裏では、バチカン銀行やマフィアと連携し、マネーロンダリングや不正融資を繰り返していました。また、CIAの資金を反共団体に流すなど、冷戦下の政治工作にも関与しました。

崩壊と逮捕

1974年、ミラノ株式市場の暴落「シンドーナ・ショック」をきっかけに、シンドーナが経営する銀行の経営が悪化し、破綻寸前に追い込まれます。財務局はシンドーナとバチカン銀行の関係に注目し、マルチンクス大司教も尋問を受けました。シンドーナは逮捕状が出る前にスイスに逃亡しましたが、その後アメリカで逮捕されます。さらに、イタリアへ密航して秘密顧客リストを奪還しようとしました。後に、アメリカで経済犯罪の容疑で有罪判決を受け、収監されました。

アンブロゾーリ調査官暗殺事件

シンドーナが収監されている間、プリバータ・イタリアーナ銀行の調査を行っていたジョルジョ・アンブロゾーリ調査官が暗殺されました。イタリア当局は、シンドーナがマフィアに暗殺を依頼したと断定し、シンドーナをアンブロゾーリ暗殺の容疑でイタリアに引き渡しました。シンドーナはその後、暗殺の罪で懲役刑を言い渡されました。

カルヴィ暗殺事件

シンドーナの逮捕後、アンブロシアーノ銀行の頭取となったカルヴィは、シンドーナと同様にマネーロンダリングや不正融資を繰り返していましたが、1982年に破綻しました。その後、カルヴィはロンドンの橋の下で「首吊り死体」として発見され、当初は自殺とされましたが、後に他殺と断定されました。この事件も、シンドーナ同様、マフィアや政界の陰謀との関連が噂されました。

最期

1986年、シンドーナは刑務所内で毒物を飲んで死亡しました。当局は自殺と結論付けましたが、マフィアや政界による口封じのための暗殺説も根強く残っています。彼の死は、数々の謎と疑惑を残したまま、イタリア金融史の暗部として記憶されています。

その後のバチカン銀行

シンドーナのスキャンダル後も、バチカン銀行はマネーロンダリングに関与したと指摘されています。2009年と2010年には、マネーロンダリング疑惑で捜査を受け、資産が押収されています。

ミケーレ・シンドーナの生涯は、金融界の闇と、政治、マフィア、バチカンが複雑に絡み合った、イタリア現代史における重要な事件の一つとして、現在も多くの謎と議論を呼んでいます。

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