ミシェル・キコイーヌ

ミシェル・キコイーヌ（Michel Kikoïne, 1892年5月31日 - 1968年11月4日）は、帝政ロシア（現ベラルーシ）に生まれ、フランスで活動したユダヤ系の画家です。彼は特にエコール・ド・パリの画家として知られ、その作品は20世紀美術において重要な位置を占めています。

生い立ちと初期の出会い

ミハイル・キコインとして生まれたキコイーヌは、幼少期を現在のベラルーシで過ごしました。父は銀行員、母方の祖父はラビという家庭環境でした。1904年にミンスクへ移り住み、クルーガー美術学校に入学したことが彼の芸術家としての第一歩となりました。ここで、生涯にわたる友人となるシャイム・スーティンと出会います。1910年からは共にヴィリニュスの美術学校で学び、ピンクス・クレメーニュとも知り合いました。この3人は後にパリで共に学ぶことを決意し、キコイーヌとクレメーニュは1912年に、スーティンは1913年にパリへと渡りました。

パリでの活動と「ラ・リューシュ」

パリに到着したキコイーヌは、エコール・デ・ボザールでフェルナン・コルモンに師事し、本格的に絵画を学び始めました。1914年には、ミンスク高校時代の知り合いであるローザ・ブニモヴィッツと結婚し、パリ15区の集合アトリエ「ラ・リューシュ」に移り住みます。この「ラ・リューシュ」は、1900年のパリ万博のために建てられた円形建築物を改築したもので、ヨーロッパ各地から集まった貧しい芸術家たちの住居兼アトリエでした。キコイーヌはここでスーティン、クレメーニュと再会し、マルク・シャガール、オシップ・ザッキン、アメデオ・モディリアーニなど、後の芸術史を彩る多くの画家たちと交流しました。

「ラ・リューシュ」での生活は、彼の芸術活動を大きく育みました。妻ローザは1915年に長女クレール、1920年に長男ジャックを出産し、家族と共に「ラ・リューシュ」で生活しました。長男ジャックは、後に画家・彫刻家ジャック・ヤンケルとして活動します。この場所で、キコイーヌは激動の時代を背景に、独自の画風を確立していきました。

その後の活動と晩年

第一次世界大戦勃発時には、キコイーヌは志願兵として従軍しました。戦後の1919年には、シェロン画廊で最初の個展を開催。この個展がきっかけとなり、美術評論家や収集家からの注目を集めるようになりました。1922年から1923年には南仏に滞在し、スーティンと共に風景画に取り組みました。1926年にはヨンヌ県に家を購入し、1927年に「ラ・リューシュ」を離れます。その後、1933年に再びモンパルナスに居を構えました。

第二次世界大戦中は、キコイーヌは再び召集を受け、戦時下での生活をグワッシュ画に残しました。戦後は活動を再開し、「時代の証人画家展」を中心に作品を発表し、1964年には同展のグランプリを受賞しました。また、1950年代からは兄（弟）が住むイスラエルをたびたび訪れ、個展も開催しました。晩年は娘クレールの住む南仏で過ごすことが多くなり、1968年、カンヌで生涯を閉じました。

ミシェル・キコイーヌの作品は、その独特な色彩と筆致で、人間の内面や時代の変化を描き出しています。彼は、エコール・ド・パリの画家として、20世紀美術史にその名を刻んでいます。

娘のクレールは、後に実業家アメデ・マラティエと結婚し、パリのユダヤ芸術歴史博物館の設立に貢献しました。彼女は、エコール・ド・パリの作品だけでなく、同館の貴重な収蔵品である「仮庵の祭り」の仮庵を寄贈しました。

キコイーヌの生涯は、激動の時代を生き抜いた芸術家の軌跡として、現代においても多くの人々に感動を与え続けています。

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