ミスティ (曲)

ミスティ（Misty）

「ミスティ」は、ジャズ・ピアニスト、エロル・ガーナーが1954年に作曲した、時代を超えて愛されるジャズ・スタンダードです。その抒情的で美しい旋律は、多くの音楽家によって演奏され、歌い継がれてきました。元々はインストゥルメンタルとして発表されましたが、後に歌詞が加えられ、様々なジャンルのアーティストが取り上げてヒットさせたことで、世界的にその名を知られることとなりました。

楽曲誕生の背景とオリジナル版

この曲の着想は、エロル・ガーナーがサンフランシスコからシカゴへ向かう飛行機の窓から見えた虹の光景に得たと言われています。彼は、頭の中で生まれたメロディを口ずさみながら、膝をピアノの鍵盤に見立てて叩き、曲を作り上げていったというユニークなエピソードが伝えられています。1954年7月27日、ガーナーはベーシストのワイアット・ラザー、ドラマーのファッツ・ハードと共に、エロル・ガーナー・トリオとしてこの楽曲を録音しました。この演奏は、翌1955年1月にリリースされたアルバム『コントラスト』に収められました。その後、「ミスティ」はジャズの代表曲の一つとして確立され、1971年には映画『恐怖のメロディ』のサウンドトラックにも採用。さらに、1991年にはグラミーの殿堂入りという栄誉に輝いています。

歌詞の付加とジョニー・マティス版の成功

オリジナルのインストゥルメンタル版が広く評価される中、ジョニー・バークがこの美しいメロディに歌詞を付け加えました。これにより、「ミスティ」はヴォーカル曲としても新たな命を吹き込まれることになります。特に、1959年にジョニー・マティスが発表したカバー・バージョンは、ポップス界で大きな成功を収めました。マティスは1959年4月21日にこのバージョンを録音。バークによる歌詞が用いられ、原曲とは異なるポップス調にアレンジされました。同年8月10日にリリースされたアルバム『ヘヴンリー』に収録された後、シングルとしても発表。アメリカの主要音楽チャートであるBillboard Hot 100では最高位12位に達し、全英シングルチャートでも同じく12位を記録するヒットとなりました。『オールミュージック』誌では、アルバム『ヘヴンリー』のレビューにおいて、このマティス版「ミスティ」がアルバムの中で最も優れた楽曲として称賛されています。

レイ・スティーブンスによるユニークなカバー

1970年代に入ると、カントリー・ミュージックの分野でも「ミスティ」のカバーが登場し、ヒットを飛ばします。レイ・スティーブンスは、1975年4月にブルーグラス調に大胆にアレンジした自身のバージョンをシングルとしてリリースしました。当時のスティーブンスはカントリー・チャートで上位を賑わせており、その勢いに乗る形で発表されたこのカバーも高い評価を得ます。同年に発表された同名のアルバムのオープニングを飾る楽曲として収録されたこのバージョンは、Billboard Hot 100で最高位14位、カントリー・ソング・チャートで最高位3位、イージーリスニング・チャートで最高位8位と、複数のチャートで上位にランクイン。年間チャートでも好成績を収め、さらに第18回グラミー賞では「最優秀ヴォーカル入りインストゥルメンタル編曲賞」を受賞するという快挙を成し遂げました。

数多くの著名アーティストによるカバー

エロル・ガーナーのオリジナル、そしてジョニー・マティスやレイ・スティーブンスによるヒットバージョンに加え、「ミスティ」はジャズ、ポップス、R&B、カントリーなど、ジャンルを超えて実に多くの著名なアーティストによってカバーされています。そのリストには、サラ・ヴォーン、カウント・ベイシー、エラ・フィッツジェラルド、ハンク・クロフォード、フランク・シナトラ、レスリー・ゴーア、アレサ・フランクリン、ウェス・モンゴメリー、カーメン・マクレエといった、音楽史に名を刻む巨匠たちが名を連ねています。これらの多様な解釈を通して、「ミスティ」は様々な世代のリスナーに届けられ、スタンダードとしての地位を不動のものとしています。ガーナーが生み出したこの美しい旋律は、形を変えながらも多くの人々に感動を与え続けているのです。

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