カーメン・マクレエ

カーメン・マクレエ：ジャズ界の知性派シンガー

カーメン・マクレエ（Carmen McRae、1920年4月8日 - 1994年11月10日）は、アメリカを代表するジャズ歌手、そして卓越したピアニストでした。彼女は20世紀において、最も影響力のあるジャズ・ボーカリストの一人として広く認知されています。

1950年代から1980年代にかけて、彼女はエラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンと並ぶ大御所ジャズ歌手として活躍し、日本においては、この3人が「ジャズ・ボーカルの御三家」と呼ばれることもありました。しかし、エラやサラ、そしてビリー・ホリデイといった先達の偉大な功績と比較すると、彼女はどちらかといえば地味な存在と見なされることも少なくありません。

生涯と音楽

ニューヨークのハーレムで、ジャマイカからの移民の両親のもとに生まれたカーメンは、10代から20代にかけて主にピアニストとして活動し、その過程で、彼女が最も影響を受けたと語るビリー・ホリデイをはじめとする、著名なジャズ・ミュージシャンたちと親交を深めました。

1950年代半ばに歌手としてデビューを果たし、サミー・デイヴィスJr.とのデュエットを含む録音をデッカ・レコードから発表しました。その後、彼女は数多くのレコード・レーベルから、多岐にわたるアルバムを発表し続けました。

カーメンは、ポップスに接近したサラ・ヴォーンとは対照的に、ジャズの枠組みを大きく飛び越えることはありませんでした。彼女はピアノトリオなどのシンプルな伴奏を好み、その中で独自の音楽性を追求しました。しかし、数少ない例外として、1976年にブルーノート・レコードから発表したアルバム『キャント・ハイド・ラヴ』が挙げられます。このアルバムでは、ラリー・カールトン、ジョー・サンプル、デイヴ・グルーシン、ハーヴィー・メイソンといった、当時のフュージョン界を代表するスター・ミュージシャンを従え、ジャズに加え、R&B、ファンク、ポップスの楽曲を見事に歌いこなしています。

また、カーメンは先輩や同世代のミュージシャンに対する敬愛の念を常に抱き、それを表現し続けたことでも知られています。彼女はビリー・ホリデイ、デイヴ・ブルーベック、ナット・キング・コール、セロニアス・モンクといった、彼女が敬愛するミュージシャンたちに捧げるトリビュート・アルバムを制作し、発表しました。1990年に死去したサラ・ヴォーンに捧げたアルバム『サラ〜デディケイテッド・トゥ・ユー』は、1991年に発表され、彼女にとって最後のアルバムとなりました。

長年にわたる喫煙の影響で、晩年になるにつれて彼女の声域と声質は低く、重厚なものへと変化しました。肺気腫のため、1991年に引退を余儀なくされ、1994年に呼吸器疾患の合併症により、74歳でその生涯を閉じました。

ディスコグラフィー（一部）

A Foggy Day with Carmen McRae (1953年)
Torchy (1955年) - 『トーチ』
Blue Moon (1956年) - 『ブルー・ムーン』
After Glow (1957年) - 『アフター・グロウ』
Boy Meets Girl (1957年) ※with サミー・デイヴィスJr.
Porgy and Bess (1959年) ※with サミー・デイヴィスJr.
Carmen McRae Sings Lover Man and Other Billie Holiday Classics (1962年) - 『ラヴァー・マン』
Woman Talk (1966年) - 『ウーマン・トーク〜ライヴ・アット・ヴィレッジ・ゲイト』
Can't Hide Love (1976年) - 『キャント・ハイド・ラヴ』
You're Lookin' at Me (A Collection of Nat King Cole Songs) (1984年) - 『ナット・キング・コール集』
Carmen Sings Monk (1990年) - 『カーメン・シングス・モンク』
Sarah: Dedicated to You (1991年) - 『サラ〜デディケイテッド・トゥ・ユー』

フィルモグラフィ（一部）

The Square Jungle (1955年) - 『四角いジャングル』 ※本人役
The Subterraneans (1960年) - 『地下街の住人』 ※本人役

カーメン・マクレエは、その卓越した歌唱力と音楽性、そして敬愛するミュージシャンたちへの深い愛情によって、ジャズ史に確かな足跡を残しました。彼女の音楽は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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