ミゼットマン (ミサイル)

ミゼットマン：冷戦終結が葬った小型ICBM

アメリカ合衆国空軍は、1980年代半ば、保有する大陸間弾道ミサイル（ICBM）の生存性を脅かされる事態に直面していました。ソ連海軍の潜水艦発射弾道ミサイル（SLBM）の増強は、アメリカ本土への攻撃能力を飛躍的に向上させ、固定式サイロに配備されたICBMは、発射前に敵の攻撃によって破壊される危険性が高まっていたのです。

この危機的状況を打破するため、アメリカはICBMの配備方法に革命を起こそうとしました。それが、移動式ICBMの開発でした。ミサイル発射機を移動させることで、ミサイルの位置を秘匿し、攻撃を回避する生存性向上策です。この考え方は、当時ソ連が配備を進めていた鉄道移動式ミサイルSS-24や車両移動式ミサイルSS-25と同様の戦略でした。

ミゼットマン(MGM-134)計画は、この戦略に基づき生まれた小型大陸間弾道ミサイルです。既存のICBM、ピースキーパーと比較してはるかに小型軽量化が図られており、車両への搭載が容易となりました。全長14メートルというコンパクトな設計は、ピースキーパーの21.6メートルと比較してもその小ささが際立ちます。搭載弾頭は単弾頭でMIRV（多弾頭）ではありませんでしたが、ピースキーパーと同等の高精度誘導システムとMk21再突入体を採用、半数必中界は90メートルが目標でした。

ミゼットマンは、ミサイル本体とそれを搭載したトレーラー、そして誘導のための索引車で構成される移動式システムでした。発射方式はコールドランチ方式を採用。キャニスターを垂直に立て上げた後、ガス圧でミサイルを射出する仕組みです。車両は時速88キロメートル以上の移動能力を持ち、平時は基地に待機、有事の際には迅速に展開できる設計でした。

しかし、この小型・移動式のシステムは、いくつかの課題を抱えていました。単弾頭であるため、目標とする破壊力を確保するには多数のミサイルが必要となり、発射指令のための通信システムの確保や、移動中の警備体制も大きな課題でした。

ミゼットマン計画は、1984年に小型大陸間弾道ミサイル計画(SICBM)としてスタート。1986年12月には本格的な開発がマーティン・マリエッタ社によって開始されました。最初の試射は1989年5月11日、ヴァンデンバーグ空軍基地で行われましたが、打ち上げから70秒後に爆発、失敗に終わりました。しかし、1991年4月18日に行われた2回目の試射は見事成功を収めました。

皮肉にも、ミゼットマンの成功は冷戦終結という出来事によって影を落とされました。ソ連の崩壊により、ミゼットマンの必要性は急速に低下し、1992年4月、開発は中止されます。ミゼットマンは、冷戦という時代が生み出し、冷戦終結によってその存在意義を失った、一つの象徴と言えるでしょう。

要目

全長：14メートル
直径：1.17メートル
重量：13.6トン
射程：11,000キロメートル
機関：3段式固体燃料ロケット
弾頭：W87 mod1核弾頭 1基（核出力：475キロトン）-Mk21再突入体に搭載

関連項目

LGM-118 ピースキーパー
アメリカ合衆国のミサイル一覧

もう一度検索