ミドリイガイ

ミドリイガイ（緑貽貝）

ミドリイガイ（学名：Perna viridis）は、イガイ科に分類される大型の二枚貝です。その名の通り、光沢のある鮮やかな青緑色の殻を持つのが特徴で、最大で約10センチメートルほどの大きさに成長します。貝殻の先端部分は尖っていて、少し曲がったような形をしています。

この貝は、もともと日本の海に棲んでいたわけではなく、インド洋や西大西洋、ペルシャ湾が原産地です。しかし、人間の活動、特に船の往来に伴って世界中に拡散しました。日本では、主に本州（山形県よりも南の地域）、四国、九州、そして沖縄本島や石垣島を含む南西諸島の沿岸部で確認されており、本来の生息域を越えて広がっています。海外でも、カリブ海、メキシコ湾、オーストラリア沿岸などで外来種として定着しています。

ミドリイガイは、波が比較的穏やかな内湾の岩場や岸壁、防波堤などに非常に強い力で付着し、しばしば大きな群れ（パッチ）を形成します。彼らは濾過摂食者として、海中のプランクトンなどを取り込んで成長しますが、この過程で環境中の毒素を体内に蓄積してしまうことがあります。特に、麻痺性の神経毒であるサキシトキシンを蓄えている場合があり、誤って食べると食中毒を引き起こす危険性があるため、注意が必要です。

日本におけるミドリイガイの外来種としての歴史は、1967年に兵庫県の御津町（現在のたつの市）で初めてその存在が確認されたことに始まります。その後、1980年代には東京湾や大阪湾といった主要な湾域で、1990年代には伊勢湾や三河湾など、各地の港湾部や都市周辺の沿岸域へと生息範囲を広げていきました。このように急激に分布を拡大させた背景には、船のバラスト水に幼生や稚貝が混入したり、船体に付着したまま運ばれてきたこと、そして冬場でも水温が高い発電所などの温排水が出る場所で越冬が可能になったことなどが考えられています。

ミドリイガイが各地で増殖・定着したことにより、様々な問題が発生しています。彼らが内湾で大群生する場所では、もともとそこに棲んでいた在来の貝類やその他の生物が締め出されてしまい、生態系のバランスが崩れるといった悪影響が出ています。特に、人の往来によって非意図的に持ち込まれた他の外来生物、例えばムラサキイガイやヨーロッパフジツボなどと一緒に非常に多く見られる場所もあり、外来種が優占する特異な生物群集が形成されています。

また、水産業への影響も深刻です。特にカキ養殖場では、ミドリイガイがカキの養殖棚や養殖されているカキ自体に付着し、成長を妨げたり、商品価値を損なったりする被害が懸念されています。さらに、発電所や工場など、海から大量の水を取り込む施設の取水口や配管内部にも大量に付着し、水の流れを悪くしたり、設備を詰まらせたりする汚損被害を引き起こしています。これらの施設では、付着したミドリイガイを取り除くために、手間のかかる手作業による駆除が行われることもあります。

このような状況を受けて、ミドリイガイは日本の「外来生物法」に基づき、「要注意外来生物」に指定されており、そのさらなる拡散や生態系・産業への影響が警戒されています。また、ミドリイガイと同様に、同じイガイ科に属するペルナイガイ（Perna perna）やモエギイガイ（Perna canaliculus）といった近縁種も、将来的に日本に侵入してくる可能性が指摘されており、注意が必要です。

一方で、原産地周辺の東南アジア諸国や、外来種として定着したニュージーランドなど、一部の地域では、ミドリイガイは食用として利用されています。しかし、日本国内で採集された個体については、前述の毒素蓄積のリスクがあるため、食用にはしないことが推奨されます。

ミドリイガイは、人間の活動によって意図せず持ち込まれ、日本の沿岸生態系や産業に影響を及ぼすようになった代表的な外来種の一つです。その特徴を理解し、拡散防止や被害対策に取り組むことが求められています。

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