ミナミトビハゼ
ミナミトビハゼ Periophthalmus argentilineatus は、ハゼ科に属する魚類です。トビハゼによく似た外見を持ち、干潟の泥の上を這い回り、尾を使って跳躍する行動が特徴的です。日本では琉球列島に分布し、独特な生態と愛嬌のある姿で人々に親しまれています。
ミナミトビハゼは、トビハゼと非常によく似た外見を持つ魚です。体型はハゼの典型的な形をしていますが、顔や胸びれの様子は両生類を思わせる特徴があります。体長は9cm程度で、頭部には両眼が背面に突出しており、驚いた際には眼下のくぼみに収納される様子が、まるで瞬きをしているように見えます。この時、半透明で半月型の膜である下眼瞼が下まぶたのように機能します。胸びれは基部が太く長く、先端の軟条部が横向きについており、前足のように動かすことができます。背鰭は前後に分かれており、第一背鰭の前縁は先端が突出しており、暗い帯が見られます。
日本では、琉球列島の奄美大島以南で見られます。国外では、西太平洋の熱帯および亜熱帯域に広く分布しています。
主に海岸の泥湿地、特に淡水の影響がある場所に生息します。河口のマングローブ帯に多く見られますが、海岸や汽水性の湿地にも出現し、まれに淡水域に現れることもあります。礫のある場所やコンクリート護岸にも見られますが、その場合は近くに泥質の干潟がある場合に限られます。
ミナミトビハゼは動物食性で、干潟などの陸上に現れることが多いです。ゆっくり移動する際には、体をまっすぐに伸ばし、左右の胸びれを同時に掻いて這うように進みます。驚いた際には、胸びれを使わずに体を「つ」の字型に曲げ、その反動で跳躍します。一度に1mほど跳躍することができ、連続して跳ねることも可能です。満潮時には水面上の岩や木の根などに登って休息し、干潮時には餌の豊富な干潟を活発に動き回ります。
繁殖期には、雄が干潟に巣穴を掘り、雌を誘います。巣穴の奥には産卵室があり、そこには空気が運び込まれます。卵は産卵室の壁、空気に触れる泥壁に産み付けられ、空気中で発生を進めます。これは、酸素の少ない干潟の地中で発生する卵の生存率を上げるためと考えられています。孵化した仔魚はすぐに巣から出て、周囲の海域に分散すると考えられています。
日本本土に生息するトビハゼ P. modestus は、ミナミトビハゼと同属で、外見的にもよく似ています。ミナミトビハゼとの違いは、第一背鰭の先端が突出していること、その縁に暗色部があることです。また、腹びれはトビハゼでは癒合膜によって繋がっているのに対し、ミナミトビハゼでは繋がっていません。分布域も異なり、ミナミトビハゼが奄美大島以南であるのに対し、トビハゼは沖縄本島以北に分布しています。沖縄本島などでは両種が見られますが、沖縄では主にミナミトビハゼが見られ、トビハゼの分布範囲は限定的で、個体数も少ないです。
蒲原（1980）の研究では、トビハゼ P. cantonensis は日本から南太平洋に分布するとされており、ミナミトビハゼとは区別されていなかったようです。
沖縄では、ミナミトビハゼが食用とされることもありますが、一般的ではありません。それよりも、海岸の愛嬌者として親しまれており、沖縄の方言で「トントンミー」と呼ばれています。例えば、絵本『とんとんみーときじむなー』では、キジムナーの友としてトントンミーが描かれ、食用にされる場面もあります。まぶい組編（1989）でも、沖縄県民の共通の幼少期の思い出として、トントンミーを追いかけ回して泥まみれになったエピソードが紹介されています。また、焼き物の箸置きの意匠などにも使われています。
プレサンスコーポレーションのオカヤドカリが登場するコマーシャルに登場するのもミナミトビハゼです。
参考文献
川那部浩哉・水野信彦、『山渓カラー図鑑 日本の淡水魚 〔特装版〕』、第2版、(1989：ただし第2版は1995)、山と渓谷社
益田一他編、『日本産魚類大図鑑』、(1984：ただし1988の第2版)、東海大学出版会
蒲原稔治、『原色日本魚類図鑑』改訂版、(1961)、保育社
沖縄生物教育研究会編、『フィールドガイド 沖縄の生きものたち』、(2004)、新星図書
沖縄県環境保険部自然保護課、『沖縄県の絶滅のおそれのある野生動物』、(1996)
琉球大学21世紀COEプログラム編集委員会編（土屋誠他）、『美ら島（ちゅらしま）の自然史―サンゴ礁島嶼系の生物多様性』、(2006)、東海大学出版会
田口哲・細谷和海、『フィールドガイド 淡水魚識別図鑑』、(2014)、誠文堂新光社
田島征彦、『とんとんみーときじむなー』、(1987)、童心社
* まぶい組編、『事典版 おきなわキーワードコラムブック』、(1989)、沖縄出版
特徴
ミナミトビハゼは、トビハゼと非常によく似た外見を持つ魚です。体型はハゼの典型的な形をしていますが、顔や胸びれの様子は両生類を思わせる特徴があります。体長は9cm程度で、頭部には両眼が背面に突出しており、驚いた際には眼下のくぼみに収納される様子が、まるで瞬きをしているように見えます。この時、半透明で半月型の膜である下眼瞼が下まぶたのように機能します。胸びれは基部が太く長く、先端の軟条部が横向きについており、前足のように動かすことができます。背鰭は前後に分かれており、第一背鰭の前縁は先端が突出しており、暗い帯が見られます。
分布
日本では、琉球列島の奄美大島以南で見られます。国外では、西太平洋の熱帯および亜熱帯域に広く分布しています。
生息環境
主に海岸の泥湿地、特に淡水の影響がある場所に生息します。河口のマングローブ帯に多く見られますが、海岸や汽水性の湿地にも出現し、まれに淡水域に現れることもあります。礫のある場所やコンクリート護岸にも見られますが、その場合は近くに泥質の干潟がある場合に限られます。
習性
ミナミトビハゼは動物食性で、干潟などの陸上に現れることが多いです。ゆっくり移動する際には、体をまっすぐに伸ばし、左右の胸びれを同時に掻いて這うように進みます。驚いた際には、胸びれを使わずに体を「つ」の字型に曲げ、その反動で跳躍します。一度に1mほど跳躍することができ、連続して跳ねることも可能です。満潮時には水面上の岩や木の根などに登って休息し、干潮時には餌の豊富な干潟を活発に動き回ります。
繁殖期には、雄が干潟に巣穴を掘り、雌を誘います。巣穴の奥には産卵室があり、そこには空気が運び込まれます。卵は産卵室の壁、空気に触れる泥壁に産み付けられ、空気中で発生を進めます。これは、酸素の少ない干潟の地中で発生する卵の生存率を上げるためと考えられています。孵化した仔魚はすぐに巣から出て、周囲の海域に分散すると考えられています。
近似種
日本本土に生息するトビハゼ P. modestus は、ミナミトビハゼと同属で、外見的にもよく似ています。ミナミトビハゼとの違いは、第一背鰭の先端が突出していること、その縁に暗色部があることです。また、腹びれはトビハゼでは癒合膜によって繋がっているのに対し、ミナミトビハゼでは繋がっていません。分布域も異なり、ミナミトビハゼが奄美大島以南であるのに対し、トビハゼは沖縄本島以北に分布しています。沖縄本島などでは両種が見られますが、沖縄では主にミナミトビハゼが見られ、トビハゼの分布範囲は限定的で、個体数も少ないです。
蒲原（1980）の研究では、トビハゼ P. cantonensis は日本から南太平洋に分布するとされており、ミナミトビハゼとは区別されていなかったようです。
利用
沖縄では、ミナミトビハゼが食用とされることもありますが、一般的ではありません。それよりも、海岸の愛嬌者として親しまれており、沖縄の方言で「トントンミー」と呼ばれています。例えば、絵本『とんとんみーときじむなー』では、キジムナーの友としてトントンミーが描かれ、食用にされる場面もあります。まぶい組編（1989）でも、沖縄県民の共通の幼少期の思い出として、トントンミーを追いかけ回して泥まみれになったエピソードが紹介されています。また、焼き物の箸置きの意匠などにも使われています。
プレサンスコーポレーションのオカヤドカリが登場するコマーシャルに登場するのもミナミトビハゼです。
出典
参考文献
川那部浩哉・水野信彦、『山渓カラー図鑑 日本の淡水魚 〔特装版〕』、第2版、(1989：ただし第2版は1995)、山と渓谷社
益田一他編、『日本産魚類大図鑑』、(1984：ただし1988の第2版)、東海大学出版会
蒲原稔治、『原色日本魚類図鑑』改訂版、(1961)、保育社
沖縄生物教育研究会編、『フィールドガイド 沖縄の生きものたち』、(2004)、新星図書
沖縄県環境保険部自然保護課、『沖縄県の絶滅のおそれのある野生動物』、(1996)
琉球大学21世紀COEプログラム編集委員会編（土屋誠他）、『美ら島（ちゅらしま）の自然史―サンゴ礁島嶼系の生物多様性』、(2006)、東海大学出版会
田口哲・細谷和海、『フィールドガイド 淡水魚識別図鑑』、(2014)、誠文堂新光社
田島征彦、『とんとんみーときじむなー』、(1987)、童心社
* まぶい組編、『事典版 おきなわキーワードコラムブック』、(1989)、沖縄出版
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