ミハイル・グロモフ (パイロット)

ミハイル・ミハイロヴィチ・グロモフ：ソビエト航空黎明期を拓いた飛行士

ミハイル・ミハイロヴィチ・グロモフ（1899年2月24日 - 1985年1月22日）は、ソビエト連邦が世界に誇る偉大なパイロットであり、航空技術の発展、特に長距離飛行の分野で歴史に名を刻んだ人物です。

現在のロシア連邦、トヴェリに生を受けたグロモフは、1918年に赤軍に加わり、モスクワ航空学校で厳格な飛行訓練を受けました。その卓越した操縦技術は早くから注目を集め、彼は後にセルプホフなどで飛行教官としても経験を積みました。この初期のキャリアで培われた知識と技術が、その後の輝かしい功績の基礎となります。

グロモフのキャリアは、ソビエトを代表する航空機設計局の一つであるツポレフ設計局との深い関わりなしには語れません。彼はツポレフが開発した多発機のテストパイロットとして、新型機の性能を極限まで引き出すための飛行を数多く手掛けました。これにより、機体の安全性や改良点を見極め、ソビエト航空技術の進歩に大きく貢献しました。

特に彼の名を高めたのは、一連の長距離飛行でした。1925年にはツポレフANT-3複葉機に搭乗し、モスクワから極東の北京まで約7,000キロメートルの飛行を見事に成功させました。これは当時の航空技術からすれば、非常に大胆な挑戦であり、アジア大陸を横断する長距離飛行の可能性を示しました。翌1926年には、再びANT-3を使用し、モスクワを出発してパリ、ローマ、ウィーン、ワルシャワといったヨーロッパの主要都市を経由し、再びモスクワに戻る7,150キロメートルを超える周遊飛行を達成しました。これらの初期の飛行は、ソビエトの航空能力を国際的にアピールする機会となりました。1929年にはANT-9で西ヨーロッパ上空を越え、フランス南部のマルセイユまでの飛行も行っています。

グロモフの長距離飛行の頂点は、ツポレフANT-25単葉機による記録飛行です。1934年、彼はこの機体を用いて、実に12,411キロメートルという驚異的な距離を無着陸で飛行し、当時の世界記録を樹立しました。これは、ソビエトの長距離飛行技術が世界の最先端にあることを強く印象付けた偉業です。

そして、1937年には、ANT-25にアンドレイ・ユーマシェフ、セルゲイ・ダニリンをクルーとして迎え、さらに壮大な挑戦に挑みました。モスクワを出発し、広大なシベリアを越え、厳寒の北極点付近を通過して、最終的にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンジャシントまでの10,148キロメートルを飛行することに成功したのです。この北極越え飛行は、単なる長距離記録の更新にとどまらず、将来の極圏航路の開拓を示唆するものであり、国際社会に大きな衝撃と賞賛をもって迎えられました。

この歴史的な飛行の成功に対し、グロモフとそのクルーはソビエト連邦政府から多大な栄誉を授与されました。グロモフは最高位の勲章の一つであるレーニン勲章を受章し、さらに航空機およびエンジンの開発・研究に携わる教授職に任命されました。また、その顕著な航空記録は国際的にも認められ、国際航空連盟（FAI）からは顕彰であるデラボー賞が贈られています。

1937年以降、グロモフは教授として次世代の航空技術者やパイロットの育成に尽力しました。1940年からは、現在もロシアを代表する航空研究機関であるM・M・グロモフ記念航空研究所（LII）の初代所長を務め、第二次世界大戦が終結するまでの期間、ソビエトの航空技術の基礎研究と新型機開発を牽引しました。

第二次世界大戦中、彼はソビエト空軍の要職を歴任し、その経験と知識をもって祖国防衛に貢献しました。戦後も航空省にて勤務し、ソビエト航空産業の復興とさらなる発展のために尽力し続けました。

ミハイル・グロモフは、その生涯において数々の飛行記録を樹立し、ソビエト航空界の発展に計り知れない貢献をしました。彼はソビエト邦英雄の称号や、4度にわたるレーニン勲章など、数多くの国家的な栄誉に浴しています。彼の勇気ある挑戦と卓越した技術は、ソビエト航空史における不滅の遺産として、今なお語り継がれています。

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