ミハイル・ヘラースコフ

ミハイル・マトヴェーヴィッチ・ヘラースコフ（1733年11月5日 - 1807年10月9日）は、ロシア帝国（現在のウクライナ）出身の詩人、小説家です。彼は、ロシア文学における叙事詩の分野で重要な足跡を残しました。日本語では「ヘラスコフ」とも表記されます。

ヘラースコフの代表作として知られるのが、1771年から1779年にかけて著された叙事詩『ロシアーダ』です。この作品は、イヴァン雷帝のカザン包囲戦を題材とし、12章、約9000行にも及ぶ大作で、ロシア最初の本格的な叙事詩として高く評価されています。『ロシアーダ』は、「ロシアの歌」を意味し、当時のロシア社会や文化を反映した作品です。

また、ヘラースコフは『ロシアーダ』と並び称される叙事詩『復活せるヴラディーミル』も著しています。この作品は、ルーシの洗礼をテーマにした作品で、ロシア正教における重要な出来事を描いています。彼の作品は、ロシアの歴史や文化、精神性を深く掘り下げたものとして、後世の作家や研究者たちに影響を与えました。

ヘラースコフは、文学活動だけでなく、熱心なフリーメイソン会員としても知られています。また、モスクワ大学の学長を務めるなど、教育分野でも活躍しました。

日本においては、ロシア文学者の木村浩がヘラースコフの『ロシアーダ』をロシア古典主義文学の最後を飾る作品として評価しています。

生涯

1733年11月5日（旧暦10月25日）、現在のウクライナにあたるロシア帝国領で、マトヴェイ・アンドレーエヴィッチ・ヘラースコフとアンナ・ダニーロヴナ・ヘラースコワの間に生まれました。しかし、父親はミハイルが生まれた後に亡くなりました。ヘラースコフは、ワラキアから移住してきた貴族の家系に生まれ、貴族としての出自を持ちます。

1740年にサンクトペテルブルクに移り住み、1743年から同地の士官学校で教育を受け、1751年に卒業しました。その後、1754年から1755年にかけて商業大学に勤務しましたが、1年で辞職。1755年から1802年にかけてモスクワ大学に務め、評議員や学長を歴任しました。

1807年10月9日（旧暦9月27日）、モスクワで生涯を終え、遺体はドンスコイ修道院に埋葬されました。

ロシアの叙事詩における位置づけ

ロシアには、ヘラースコフ以前にも『イーゴリ遠征物語』や『ブィリーナ』などの叙事詩が存在しました。しかし、『ブィリーナ』は「民衆叙事詩」とされ、全体を俯瞰するような叙事詩は、ヘラースコフの時代までありませんでした。

18世紀に入り、ヴァシリー・トレディアコフスキー、ミハイル・ロモノーソフ、アレクサンドル・スマローコフといった詩人たちが叙事詩の作成を試みましたが、いずれも成功しませんでした。

そのような状況の中、1779年に完成したヘラースコフの『ロシアーダ』は、ロシア最初の叙事詩として、文学史に名を刻みました。これは、フランスなど他の国と比べて、やや遅い完成となりましたが、ロシア文学における叙事詩の確立に大きく貢献しました。

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