ミハイル・ホドルコフスキー

ミハイル・ボリソヴィチ・ホドルコフスキー（1963年生まれ）は、ソ連末期からエリツィン時代にかけて新興財閥（オリガルヒ）の一角を築き、巨大石油会社ユコス社のトップとして知られた人物です。現在は英国ロンドンを拠点に、ロシアの政治改革を求める活動を展開しています。

ホドルコフスキーはソビエト連邦時代のモスクワで生まれ育ちました。化学技術系の大学を卒業後、若くして共産主義青年同盟（コムソモール）の書記を務め、その組織基盤を活用して1980年代後半にビジネスの世界へ足を踏み入れました。当初は科学技術分野の組織を立ち上げ、その後、ソ連のジルソツ銀行と連携して銀行を設立。この銀行は後にバンク・メナテップと改称し、グループ拡大の中心となりました。バンク・メナテップは、ソ連共産党の隠し資産運用に関与していたとの疑惑も取り沙汰されました。

ソ連崩壊後のロシアで実施された民営化の波に乗り、メナテップ・グループはバウチャー方式や株式担保型入札を通じて数多くの企業を取得し、巨大な持ち株会社へと成長しました。1995年にはグループ管理会社「ロスプロム」を設立し、金融のみならず、食品、繊維、金属など多岐にわたる産業分野で傘下企業を増やしていきました。この過程で、石油会社ユコスもグループに組み込まれることになります。

1990年代後半、ホドルコフスキーはロシア政界にも影響力を持つようになります。1996年の大統領選挙では、共産党候補の台頭を阻止するため、他の有力政商たちと共に現職のエリツィン大統領の再選を資金面やメディアを通じて強力に支援しました。彼らは「7人の銀行家」（セミバンキルシチナ）と呼ばれ、エリツィン再選後にロシアの政治・経済において大きな発言力を持つようになります。

1998年の金融危機でバンク・メナテップは破綻したものの、グループは石油事業に注力し、ホドルコフスキーはユコスの社長に就任しました。ユコスはルクオイルと並ぶロシア有数の石油会社に成長し、原油の対米直接輸出なども開始しました。2003年には同業のシブネフチ社との合併計画を発表し、さらに巨大化する見込みでした。

しかし、2003年10月、ホドルコフスキーは脱税などの容疑で逮捕・起訴され、ユコスの社長を辞任しました。当時のロシアで最も裕福な人物であった彼の逮捕は、国内外に大きな衝撃を与えました。この逮捕の背景には、彼がプーチン大統領への批判を公言し始め、野党への献金を通じて政治的影響力を行使しようとしたことへの反発、そしてシロヴィキと呼ばれるプーチン政権中枢の強硬派がオリガルヒの政治関与を排除しようとした動きがあったと見られています。また、ユコスとシブネフチの合併会社の一部株式を米エクソンモービルに売却する交渉が進んでいたことも、石油産業の国家管理を目指すプーチン政権の意向に反した可能性が指摘されています。

裁判では禁固9年の実刑判決を受け、控訴審で8年に減刑されましたが、脱税や詐欺、横領などの罪でも有罪となり、収監されました。これにより、予定されていた下院補欠選挙への立候補は事実上不可能となりました。

獄中では政治的なエッセイを発表するなど活動を続けましたが、シベリアの刑務所に移送され、他の囚人に襲われる事件も経験しました。仮釈放申請は却下され、刑期も延長されましたが、2011年には欧州人権裁判所がロシア政府に対し、公判や拘置環境における人権侵害を認め、賠償金の支払いを命じています。

約10年にわたる収監を経て、2013年12月にプーチン大統領の恩赦により釈放されました。釈放の舞台裏では、ドイツ政府やハンス・ディートリヒ・ゲンシャー元独外相らによる秘密裏の交渉があったとされています。釈放後、彼はドイツを経由してロンドンへ移り、事実上の亡命生活に入りました。

国外に出てからも、ホドルコフスキーはロシアの反体制派として積極的に活動しています。ロシア開放財団を設立し、ロシアの政治改革運動や野党勢力を支援する意向を示しています。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後は、メディア出演などを通じてプーチン体制への批判を強め、プーチン大統領の行動原理やロシアの現状、ウクライナ情勢について独自の分析を展開しています。彼は、プーチン大統領が汚職と犯罪で国を統治し、経済・社会問題から国民の目をそらすために「外敵」を利用し、戦争を繰り返していると主張しています。また、ロシア国民は体制への抵抗が危険であるため、自己欺瞞的な態度をとっていると分析しています。近年も、プリゴジン氏の反乱や大統領選挙候補への支持表明など、具体的な政治行動に関与しています。

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