ミヤマハナシノブ

ミヤマハナシノブについて

ミヤマハナシノブ（深山花忍、学名：Polemonium caeruleum ssp. yezoense var. nipponicum）は、ハナシノブ科に属する高山植物で、特に穏やかな山の環境に生息する多年草です。この植物は、基本種にあたるヨーロッパハナシノブ（P. caeruleum）を母体とし、いくつかの亜種や変種が存在します。日本では、エゾハナシノブやカラフトハナシノブなど、いくつかの違った亜種が知られています。

分布

ミヤマハナシノブは、北アルプスの後立山連峰の清水岳と南アルプスの北岳、鳳凰山に見られる特異の分布を持ちます。この植物は、亜高山帯の崖地や湿った林床など、比較的湿った環境で育つことが特徴です。特に北岳周辺はミヤマハナシノブの代表的な生育地であり、大樺沢二俣の近くや北岳の草地に生息しています。清水岳の個体が学名の基準となっており、学名の「caeruleum」はラテン語で「青色」を意味します。

特徴

この植物の葉は羽状複葉であり、披針形の葉が約8対施されて互生しています。その葉の形状が、シダの仲間であるシノブと似ていることから、この名前がつけられました。根茎から花茎を伸ばし、枝分かれした先には、直径約3センチメートルの淡い青色から紫色の花が咲きます。ミヤマハナシノブの高さはおおよそ30から80センチメートルに達し、花は主に6月下旬から8月の間に開花します。

環境省の保全状況

ミヤマハナシノブは、環境省のレッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。これは、主に園芸用の採集や登山客による踏みつけがその生育に悪影響を及ぼしていると考えられています。また、文化的価値を認識し、環境省は中部山岳国立公園および南アルプス国立公園で、この植物を自然公園指定植物として保護しています。

日本国内では、いくつかの都道府県でレッドリストの指定を受けており、特に静岡県では絶滅危惧I類（EN）に該当しています。山梨県と富山県では危急種として、北北海道では準絶滅危惧（NT）に分類されています。1958年には、山梨県立自然公園条例によって、この植物が特別に保護されることが決定されました。

近縁種および亜種/変種

ミヤマハナシノブにはいくつかの近縁種や亜種、変種が存在します。エゾノハナシノブは北海道と青森県の白神山地に分布し、環境省により危急種とされています。また、ヒダカハナシノブは北海道の日高地方南部に自生しています。カラフトハナシノブは北海道、シベリア、サハリンに広がり、環境省によって絶滅危惧種に指定されています。礼文島にはレブンハナシノブ、そしてユーラシア北部と北米にはキョクチハナシノブが分布しています。北海道の釧路湿原と霧多布湿原に見られるクシロハナシノブも危急種に登録されています。

同属別種

同じハナシノブ科には、九州・阿蘇地方に自生するハナシノブがあり、これは80-100センチメートルの高さの茎を持ち、6月から8月にかけて美しい青紫色の花を咲かせます。その生育数は2000程度と推定され、環境省のレッドリストではミヤマハナシノブよりもさらに深刻な絶滅危惧ⅠA類に指定されています。不安定な生息環境や盗掘がこの植物の生存に脅威を与えています。

このように、ミヤマハナシノブは日本の高山植物として、美しさと希少性を兼ね備えた魅力を持っています。その保存と保護が急務となっている理由もここにあります。

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