鳳凰山

鳳凰山（ほうおうざん）

鳳凰山は、山梨県の南アルプス北東部に位置する、地蔵ヶ岳、観音ヶ岳、薬師ヶ岳の三つの山の総称です。これらの山々は「鳳凰三山」とも呼ばれ、南アルプス国立公園内にあり、その美しい景観と豊かな自然は多くの登山者を魅了しています。日本百名山、新日本百名山、新・花の百名山、そして山梨百名山にも選定されており、その価値は高く評価されています。

概要

鳳凰三山は、それぞれ特徴的な山容を持っています。地蔵ヶ岳は、山頂部にそびえ立つオベリスクと呼ばれる岩峰がシンボルであり、観音ヶ岳は、その名の通り優美な姿をしています。薬師ヶ岳は、比較的穏やかな山容で、多くの登山者に親しまれています。

地蔵ヶ岳の西には赤抜沢ノ頭、薬師ヶ岳の南には砂払岳という小ピークがあり、これらの山々も鳳凰山を構成する重要な要素です。特に、地蔵ヶ岳と赤抜沢ノ頭の鞍部は「賽ノ河原」と呼ばれ、多くの石地蔵が安置されており、信仰の場としての歴史を物語っています。

鳳凰山は、南アルプスの主脈から少し離れた場所に位置しており、甲斐駒ヶ岳から続く支脈の先にあります。山頂部は森林限界を超えているため、3山とも眺望が非常に優れており、天気が良ければ、北岳、仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、八ヶ岳、そして富士山まで見渡すことができます。東側には視界を遮る山がなく、甲府盆地が広がるため、開放感も抜群です。また、南アルプスの山々の中では珍しく、甲斐駒ヶ岳とともに花崗岩で構成された白い山肌が特徴的です。

山名の由来

鳳凰山の山名は、江戸時代の地誌類に登場しますが、その指す範囲については諸説ありました。地蔵ヶ岳のみを指す一山説、観音ヶ岳と薬師ヶ岳の二峰を指す二山説、そして三山全てを指す三山説が存在し、山名論争が繰り広げられてきました。

『甲斐国志』には、「絶頂に高さ数丈の巌あり遠く望めば人物の状の如し」とあり、当時の人々は現在の地蔵ヶ岳を別の場所だと認識していた可能性もあります。その場合、当時の「地蔵ヶ嶽」は、現在の赤抜沢ノ頭を指していたと考えられています。

山麓地域では、当初一山説が一般的でしたが、山岳信仰の広まりとともに三山説が浸透していきました。現在では、鳳凰山といえば鳳凰三山を指すのが一般的です。

地蔵ヶ岳のオベリスクが鳥のくちばしに見えることから、鳳凰の山名由来になったという説や、地蔵ヶ岳山頂の巨石を大日如来に見立てて法王山と呼ばれていたものが転じて鳳凰山になったとする説もあります。また、757年に孝謙天皇が転地療養のために奈良田を訪れた際、法王山に登ったことが山名の由来になったという説もあります。

なお、平成17年には、それまで「薬師岳」「観音岳」と表記されていた山名が、「薬師ヶ岳」「観音ヶ岳」に改められました。

歴史

鳳凰山は、古くから信仰登山の対象となっていました。764年には、孝謙天皇が奈良田温泉に滞在した際に鳳凰山に登ったと伝えられています。

江戸時代には、山域北部で金鉱が稼働し、それに関連した山論も展開されました。明治時代に入ると、1902年に陸地測量部が観音岳山頂に二等三角点を設置し、1904年には辻本満丸がホウオウシャジンを発見しました。同年には、ウォルター・ウェストンが地蔵岳のオベリスクに初登頂しています。1932年には、深田久弥らがドンドコ沢ルートから登頂しました。

1964年には、南アルプス国立公園に指定され、山の上部は特別保護地区、山腹は特別地域となっています。1990年には、田中澄江が登頂し、その後『新・花の百名山』で鳳凰山を紹介しました。

登山

鳳凰山には、様々な登山ルートがあります。

ドンドコ沢ルート

青木鉱泉からドンドコ沢沿いを登るルートで、滝や渓流を楽しみながら登ることができます。五色の滝、白糸の滝、鳳凰の滝、南精進ヶ滝など、美しい滝が点在しています。

中道ルート

青木鉱泉から薬師ヶ岳へ登るルートで、比較的短時間で下山ができるため、ドンドコ沢ルートで登り、中道ルートで下山する周回コースが人気です。

御座石鉱泉からのルート

御座石鉱泉から燕頭山と鳳凰小屋を経由し、地蔵ヶ岳へ至る尾根道です。

夜叉神ルート

南アルプス林道が開通してからは、夜叉神トンネル東口から夜叉神峠、杖立峠、南御室小屋、薬師岳小屋を経由するルートがよく利用されています。傾斜が緩く、整備も行き届いているため、安全に登山を楽しめますが、登山口から薬師ヶ岳まで約7時間かかります。

広河原からのルート

広河原から白鳳峠・高嶺を経由して地蔵ヶ岳へ至るルートで、急登が続くため、下山に使われることが多いようです。夜叉神ルートで登り、広河原に下山する周回コースは、鳳凰三山の魅力を存分に味わえる人気のルートです。

甘利山からのルート

甘利山から千頭星山と大ナジカ峠を経るルートで、利用者は少ないですが、定期的に整備されています。

山小屋

鳳凰山周辺には、いくつかの山小屋があります。南アルプス国立公園内であるため、キャンプ指定地以外での幕営は禁止されています。

登山道で見られる高山植物

鳳凰山では、多くの高山植物を見ることができます。山頂部は森林限界を超えており、ハイマツ帯が広がっています。特に、キキョウ科のホウオウシャジンとナデシコ科のタカネビランジは、環境省および山梨県のレッドリストで絶滅危惧IB類に指定されています。

夜叉神峠付近では、アヤメ、シロバナノヘビイチゴ、マイヅルソウ、ミツバツツジ、ヤナギランなどが見られ、杖立峠と苺平周辺では、アキノキリンソウ、コイワカガミ、サンカヨウ、ダケカンバ、ミネウスユキソウ、ヤマハハコなどが見られます。また、鳳凰三山の稜線では、イワウメ、ウサギギク、ウラジロナナカマド、タカネビランジ、トウヤクリンドウ、ハイマツ、ハクサンシャクナゲ、ホウオウシャジンなどが見られます。

地理

鳳凰山は、赤石山脈の主稜線から南東に延びる枝尾根上に位置しており、南の夜叉神峠へ尾根が続いています。

周辺の峠

広河原峠（2,344m）
白鳳峠（2,450m）
大ナジカ峠（1,890m）
杖立峠（約2170m）
夜叉神峠（1,760m）

源流の河川

鳳凰山を源流とする河川は、富士川水系で太平洋に流れています。

野呂川（早川の支流）
大武川、小武川（釜無川の支流）
大武川支流の石空川には精進ケ滝があります。

鳳凰山の風景

観音岳山頂からの展望は素晴らしく、遮るもののない大パノラマを楽しむことができます。地蔵岳のオベリスクは、遠くから見てもすぐにわかる特徴的な山容をしています。青木鉱泉を起点としてドンドコ沢ルートから地蔵岳、観音岳、薬師岳を縦走し、中道ルートを下山するルートは、鳳凰山の魅力を満喫できる人気のコースです。

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