ミルテホシン

ミルテホシン（Miltefosine）

ミルテホシンは、主に寄生虫感染症であるリーシュマニア症や、特定の自由生活性アメーバによって引き起こされる感染症の治療に用いられる薬剤です。商品名としては「イムパビド（Impavido）」が知られています。この薬剤は、特に皮膚型、内臓型、粘膜型といった多様な病態を示すリーシュマニア症に対して有効性が認められています。

適用される疾患と使用法

ミルテホシンは、リーシュマニア症に対する治療の中心的な選択肢の一つとして位置づけられています。特に、アムホテリシンBやパロモマイシンといった他の薬剤との併用療法が行われることもあります。投与経路は経口であり、比較的容易に服用できる点が特徴です。リーシュマニア症以外にも、フォーラーネグレリアなどの特定の自由生活性アメーバによる重篤な感染症に対しても、効果が期待できる場合があります。

安全性に関する情報

ミルテホシンを使用する際に報告されることのある主な副作用には、

嘔吐
腹痛
発熱
頭痛
腎機能の低下

などがあります。これらの症状は比較的よく見られますが、通常は軽度から中等度です。しかし、まれに重篤な副作用として、

スティーブンス・ジョンソン症候群（皮膚や粘膜に重度の炎症が生じる疾患）
* 血小板減少症（血液中の血小板数が異常に減少する状態）

などが起こる可能性も指摘されています。また、妊娠中の女性がミルテホシンを服用すると、胎児に有害な影響を及ぼす危険性があるとされています。このため、妊娠している、または授乳中の女性への投与は推奨されていません。

作用機序と歴史

ミルテホシンの生体内での詳細な作用機序については、現時点では完全に解明されていません。しかし、寄生虫やアメーバに対して何らかの形で細胞機能を阻害することにより、効果を発揮すると考えられています。

この薬剤が初めて合成されたのは1980年代初頭のことです。当初はがん治療薬としての開発研究が進められていましたが、その後の研究により、リーシュマニア症に対する有効性が発見されました。そして、2002年にインドで初めてリーシュマニア症治療薬としての使用が承認されました。

国際的な位置づけと費用

ミルテホシンは、世界保健機関（WHO）が定める「必須医薬品リスト」に収載されています。これは、公衆衛生システムにおいて最も効果的で安全、かつ必要不可欠な薬剤の一つとして認められていることを意味します。

治療にかかる費用については、地域によって大きな差があります。開発途上国における一貫治療の費用は、およそ65米ドルから150米ドルの範囲とされています。一方、先進国での治療費は、開発途上国の10倍から50倍以上にもなることが報告されており、経済的なアクセスが課題となる場面も存在します。

このように、ミルテホシンはリーシュマニア症をはじめとする特定の感染症に対し、国際的に重要視されている経口治療薬であり、その歴史や安全性、費用といった様々な側面が知られています。

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